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Contact Garden
手に巻かれた包帯を見下ろしていれば、頬の擦り傷に暖かい指が軟膏を塗る。度重なる激しい戦いの中、何処にも属することなく孤独のまま走り続けていたオニキスは、今置かれた状況にどう反応していいのか分からずにその手を静かに払う。沈黙が続く間、相手の視線を注がれていることもオニキスにとっては居た堪れなかった。頑なに目線を合わせず口も開かない。そんな朴念仁を前にしてグリーンは柔らかく笑う。手を払われたことに全く臆することなく、グリーンは中断された応急手当を再開する。そうして頬に貼られた大きな絆創膏を、オニキスは探るように触れてみた。その手をグリーンの手の平が包み込む。驚いて顔を上げた瞬間に初めて目が合った。
優しく甘い顔立ちのグリーンの眼差しが真っ直ぐこちらを見つめている。戸惑うオニキスの視線が下に落ちるより先に互いの唇が重なった。突然の柔らかい感触に狼狽えて体を引こうとするも、両手で頬を包んだままこちらに身を寄せるグリーンの重みのまま後ろにパタリと倒れ込んでしまった。
色とりどりのレンジャー達は今日も規制による変態狩りと戦っていた。ブラックを筆頭にして変態技の応酬でリンリー達を蹴散らしている。オニキスは戦場の隅で人知れず仕留め漏れたリンリーを追い、始末していた。レンジャー達の猛攻から逃れるだけの余力を残しているリンリーをたった一人で相手にするのはそれなりの過酷さがある。然し、オニキスは人工的に生み出された変態故に他のレンジャーとは一線を引いていた。オニキスを生み出した組織は正義の変態ではなく、寧ろ規制する側だった。その為に植え付けられたリミッター(羞恥心)のせいで心から正義の変態を謳う事は出来ない。規制の心が覚醒すればいつかはリンリー達と同じように変態狩りに走ってしまうかも知れない、オニキスはそんな怖れを抱いていた。ありのままに変態を貫くレンジャー達に眩しさを感じ、陰ながらこうして応戦する日々を送っていたのだ。
「オブシーンリヴァイス!!(猥褻物修正!!)」
追い詰められたリンリーが必殺技を仕掛けてくる。かわした先にもう一体リンリーが潜んでいた。挟撃を受け、もう一発の攻撃が身を翻したオニキスに直撃する。リンリーの必殺技は受けるとちんリウムの威力を弱めてしまう。いくら改造強化されているとはいえ、連戦を繰り返し疲弊した状態でこうも直撃を食らえば流石に苦戦を強いられる。
ジリジリと迫り来るリンリーが更に力を弱めようとホワイトを撒き散らす。
「ピー(くそっ)」
音声規制も始まった…。万事休すだ。
次の瞬間、背後から迫っていたリンリーが吹き飛ばされて倒れ込む。光り輝くちんリウムのオーラと共に鮮やかな緑色がふんわりと駆け抜けた。爽やかなリフレッシュグリーンの香りを漂わせ、もう一体のリンリーをもちんリウムの衝撃で薙ぎ倒してしまう。起こった事に呆然として見上げるオニキスの肩にそっと手をおいたその人こそ変態レンジャーグリーンだった。
それ以来、オニキスの孤独な戦場には知らぬ内にグリーンが参戦するようになった。どこからともなく現れては、いつの間にか背後に緑色の旋風が巻き起こる。何度か繰り返すうちに自然と互いに背中を預けるようになっていった。
その日はいやにリンリーの数が多かった。共闘していてもリンリーの攻撃をかわしきれずに何度か体を掠めていく。ようやく最後のリンリーを倒した頃には二人共疲れ切っていた。いつもならすぐにその場を離れるはずだというのに、オニキスはなかなか動けなかった。息を整え蓄積しきった疲労を回復している最中だというのに、グリーンは余力を振り絞るようにしてオニキスの手を引き、路地裏の片隅にある隠れ家へとなだれ込んだ。二人で暫く床に転がって限界をやり過ごす。有無を言わぬまま連れ込まれた事にオニキスは放心状態だった。少し回復したらしいグリーンは立ち上がり、室内の収納からタオルと衣類を出してくる。
「凄く汚れてる。傷の手当もしたいから洗っておいで?」
「…いや、……」
オドオドと拒絶する前にグイグイとシャワールームに押し込まれてしまう。どうも調子が狂ったまま押し切られては、言われるままにするしかなかった。宛てがわれたスウェットとTシャツに袖を通し、頭にタオルを被る。顔を見られぬようにコソコソとシャワールームを出たつもりが、あっという間に捕まって拭ききれていない髪の毛をガシガシと散らされる。あちこちに出来た擦り傷や打ち身の手当てをされながら、どうやってここを抜け出すかばかりを考えていた。
だというのに今、オニキスはグリーンに押し倒される形で口付けを交わしている。置きどころを失っていた手でグリーンの肩を掴む。頬に当てられていたグリーンの手は、オニキスの髪の毛を直に掻き乱している。その仕草は熱にまみれていて、頭皮の微かな感触すらゾワゾワと甘く感じる。粘膜を絡め合わせる深い触れ合いに発展していく事に焦りを感じ、グリーンの肩を引き離した。
「何故…」
「…とても、辛そうだから」
その後の事は、なぜそうなったのかよく分からない。感情の高ぶりに任せて噛み付くようにキスをして、誘われるままグリーンの胸元の肌の香りを吸い込んだ。身体の昂ぶりが幾度となく襲われてきた改造ファルスの暴走ではないかと狼狽えるオニキスをリードするようにして、グリーンもファルスを解放して見せる。自らと同じようにエレクチオンする自分以外のレンジャーのファルスにオニキスは驚嘆した。淡い血色がとても美しい。躊躇いながら指先で触れると其れはピクリと震えた。
「大丈夫だよ、もう、大丈夫」
諭すように宥める穏やかなグリーンの声色に不思議と気が緩んでしまう。互いの手を、指を絡ませてその間に重ねたファルスを包む。体温が伝わって、混ざり合って、感覚が加速していく。暴走とは違う激しい熱量を持って絶頂が来るのが分かる。
「ダメだ、離れろ…、!」
「オニキス、一緒に、だよ…っ、ああっ!」
ちんリウムが眩く光り輝く。
漆黒の中に淡い緑色が滲むように絡み合う。繋いだ二人の手に熱い飛沫が散っていた。
疲れ切ったグリーンがすぐ隣で眠っている。ちんリウムを消耗し切って寝入ってしまっていた。目覚めてすぐ、オニキスは自らのファルスを確認する。其れは恐ろしい程に鎮静していた。いつもならば起きがけには何度も暴走を繰り返しているはずだった。ちらりと隣に並ぶグリーンのファルスを見やる。そして先程の情事を思い出す。何とも言えない心持ちを払拭出来ず、オニキスは汚れたままのスーツに着替え隠れ家を後にする。
静かに閉まる扉の音をグリーンは聞いていた。
Contact Garden
END
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