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3話
家に帰ってから、泣き疲れるまで泣いてやっと眠くなってきたのは新しい朝が来る寸前の曖昧な空の色がカーテン越しに見えてきた頃だった。有休と言う形で休もうと決め、眠りについたのが1週間前のこと。その間、慶のラインのメッセージに既読だけつけ、無視し続けていた。
季節は、夏真っ盛りになりつつあり、足りない栄養を補うためにサプリメントを取って生活している。
洗面台の鏡に映った自分を直視できなかった。パサパサの髪と艶のない青白い痩せこけた頬は、病的であったからだ。これでは、孝涼も慶も引くだろう。
(何やってるんだろう)
「郁磨、体調はどう?」
「ちょっと食欲がないだけ」
「それがいいわね。無理しちゃダメよ」
母は心配そうな――後ろ髪をひかれるような表情で「お留守番よろしくね」と言い残し、寒川家に向かった。
湯気は出ていないもののまだ温かいみそ汁とごはんが置いてある。いつものように息を吹きかけて冷ましてから飲んだ。ご飯も口に入れた。なのに、何も味がしないのだ。泥水みたいな色の水で柔らかくねっとりとした食感の物体を胃袋に押し流す。
泣きすぎて世界が一晩のうちに劇的な変化を遂げてしまったあの時から、ずっとモノクロの世界で生きている。そう思うしかないほど、みじめで、何もかも郁磨から奪い去ってしまったのだ。
§
食べる楽しみがないと、作る気力もなくなる。食べないといけないのに、食欲がない。
リビングでまどろんでいると、誰か入ってくる気配がした。
「慶ちゃん、郁磨を部屋まで運んでもらるかしら。ごめんね」
「いえいえ。お安い御用だよ」
横抱きにされ、ベッドまで運ばれた。当然のようにシングルベッドに入って、添い寝する慶を押しのける気力すらなく、ベッドを分け合う。
「なんでメシを食べにこねぇんだ」
「ごめん。お願いだから、孝涼には言わないで。こんな姿見たら、責任を感じてしまうだろ」
「またアニキか……。俺はどうでもいいんだな」
そう言うわけじゃないと言いたいのに、眠すぎて言葉がでない。
慶の体温とタバコの匂い交じりの体臭と重さ。昔は、自分のほうが大きかったのに、いつの間にか守られている。抱き締められている。
昔みたいに寝相が悪くないといいなと思いつつ、目を閉じた。
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