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5話

 車のドアを開けた瞬間、蒸すような暑さと照り返しが身体にこたえた。急に食材が足りなくなったからと買い出しを頼まれたのはいいが、ハンドルが重く感じるし、広いスーパー内を歩き回る体力もない。頼まれたものと慶が好きなものを買って帰ってきたのだが、あまりの暑さに一瞬、気を失いかけた。  荷物を持ち歩きだすと、うるさいほどのセミの大合唱が遠く聞こえ、景色がぼんやりとしぐるぐると回る。倒れると思い、金属製の階段の手すりをつかんだが、やけどをしそうなほど熱くて思わず手を離してしまった。その反動で身体がますます傾き、うずくまることもできずに、頭からアスファルトに倒れていく様子が、スローモーションのように見える。ヤバい、と思うのだが、身体はみじんも動かない。それどころか、声を出したら吐きそうだ。 「おい! しっかりしろ!」  誰か、焦ったような声が聞こえる。落ちそうな意識の中、声のしたほうを向こうとしたが、どうにもこうにも身体が動かない。 「郁磨、か? 郁磨、しっかりしろ」  もしかして、夢の中で慶か孝涼が自分を心配してくれて、駆け付けてくれたのだろうか。それなら、幸せだと思った。      ***  心配そうに見つめる慶と孝涼と母親に囲まれていた。においと天井から察するに、寒川家のどこかだ。ベッドに横になったまま見つめると、孝涼が口を開いた。 「慶から話は聞いた」  喋るなっていったのに、ブラコンに話したのがいけなかった。そう思いながら、慶をにらんだ。 「前からダイエットと夏バテのおかげで、想像以上にやせただけだよ」  気丈にふるまった。そう、孝涼のせいではなく、自分のせいなのだ。 「僕のことなんか気にせずに、高原さんと仲良くお幸せに!」  青白い病人の顔で言われてもたいして効果はなさそうだけれども、せめてもの当てつけと本当にそう願う気持ちを伝える。 「ああ。郁磨も幸せになれよ」  眩しい笑顔に、現実を突き付けられ、視線を逸らした。 「大丈夫だって、俺が郁磨を幸せにするから」  目を丸くし、あたふたしているのは郁磨だけだった。周りにいる人間は、別段驚いた様子もなく、安心しているような表情をしている。 「なあ、孝涼? 周知の事実なのか?」 「ああ。気が付かないのは、郁磨だけだ」  笑いをこらえている表情で言われ、なんだかドッキリに引っ掛かったマヌケみたいで、ばつが悪い。 「ていうことで、郁磨の面倒を見ながら、落とすことに専念するぜ」 「嘘だろ……」  慶の爽やかな笑顔に見合わない真夏の太陽のような欲望がたぎった眼で見るなよ。  あの……、もう一回気を失っていいですか?

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