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「スタート」 2
「最近高見君みないね」
よくカウンターで飲んでいた物静かな常連。彼はマスターを相手にポツポツ話をし、深酒しない程度に酔って帰っていく。時々話をしたが穏やかな男だ。長谷部が苦手らしく、その点は俺も同じだったのでちょっとした仲間意識がある(マスターに言わせると長谷部は悪い人間ではないってことだけど)
「高見君?俺がキューピットしちゃったから」
「え?マスターが?」
「俺は名刺を預かって渡しただけなんだけど」
「へえ。高見君はラブラブか」
「石崎君は?」
曖昧にすることも嘘をつくこともできた。でもマスターに嘘をつくのは嫌だったから正直に言う。
「別れたよ。長男気質のお節介にウンザリだって言われてね」
「……そう」
「あぶなっかしい奴を見るとほっておけなくて。最初はうまくいく。でもだんだん俺のことがウザったくなるみたい。アンタは父親か!って言われたこと一度や二度じゃないし」
「あぶなっかしいから口もだしたくなる。反抗と窘めの悪循環ってわけか」
「あははは。さすがマスターそのとおり」
「マスター、ビールちょうだい」
カウンターに来たのは長谷部だ。
「タカミーの次はイシピーか。マスターに甘える男が順番待ちしてるってか?」
「穏やかに飲んでいるだけだよ。長谷部が一人なんて珍しいこともあるもんだな」
だいたいテーブル席で新顔を口説いているのが長谷部だ。平日のせいか今日は客が少ない。
「新モノも考えものだなって。こないだのヤツがさ、超冷凍マグロで下手くそなくせに続けてくれって懇願されて。ヤバい奴拾って大失敗。番号交換してなくてよかったよ。お望み通りそれなりにヤリ倒して眠ったところで退散してきた」
「お前……最低だな」
「最低?望んだのはあっちだぞ。ホテル代はこっちが払ったし俺に非はないぜ?」
マスターが無言で長谷部にビールを渡した。
「イシピー、言っておくけど俺は合意じゃないと寝ない。自分の基準で最低とか言うな」
長谷部は定位置のテーブル席に向かった。マスターがため息をつく。
「マスターの言うようにボロ雑巾にされたみたいだね」
「あれ以来ここに来ていないんだ。別の店で同じことしていないといいけど」
自分を安売りして得られるものって何だ?俺は若者にそう聞きたかった。
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