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「スタート」 3
2時間ばかりの残業を終えて地下鉄に乗る。勤務先の近くに住むと金が貯まるけど、自宅と勤務先の間に大通りやススキノがあると途中下車して貧乏になる。そう言ったのは誰だか忘れたが、その言葉どおり途中下車をするかどうか悩んでいる。コンビニ弁当ならラーメンか蕎麦を食べたい気もするし、そうなればビールをひっかけたくなる。そしてゴールは「bright」……どうしようか。
結局大通りで降り、地上をススキノまで歩いた。中通りを探検して店を探すのも悪くない。東側と西側どちらかで迷い西側を歩くことにした。ジンギスカンの匂い、車の音、ネオン、人の声とともにゆっくり歩く。
めぼしい店を見つけられないまま南に来てしまった。このまま歩いてもホテル街だから店はない。
「イヤだ!離してください!」
引き返そうと振り向いたその時、男の声がした。10mほど先に若い男の腕を引っ張り引きずるように歩いている男。この状況はどうみても合意とは思えない。下手な正義感は厄介事に繋がる可能性が高いが見逃すことはできなかった。走って二人を追いかける。
「ちょっと!この人嫌がってますよ」
「ああ?なんだ?部外者はひっこんでろ!」
「離してください!」
腕を引っ張られているのは、なんとボロ雑巾君だった。マスターの心配が的中したということか。事が大きくならないうちに場を納めなければならない。
「警察に電話します。この人どうみても未成年ですよね」
ポケットからスマホを取り出すと男の動きが止まった。
「未成年に悪いことしたら立派な犯罪ですから、警察がすぐきますよ」
スマホの画面をタップした所で男に腕を掴まれた。
「ちょっと意見の相違があっただけだ。アンタも大げさだな。おいお前、二度とことの辺りチョロチョロするなよ」
男は俺達をひと睨みしたあと背をむけで歩いて行った。
「さてと。君をこのまま帰してもいいけど、それだと俺が心配だ。お腹はすいてない?悪いけど腹ぺこなんでつきあってくれないかな。そこの焼き肉でいい?」
「ええと……あの」
「俺のこと覚えていないかもだけど。何日か前に「bright」にいたよね」
彼は青ざめたあと固まった。眼だけがキョロキョロと俺の表情を探っている。
「焼肉屋はそこ。君が動かないならさっきの男みたいに腕をひっぱるよ」
彼は観念したのか頷いて歩きだした。
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