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第4話
食べ終わり、食器を返却した僕はしばらく校舎の中を彷徨 った。学校の校舎を実際に歩いてみると同じ風景が並んでいて自分がどこにいるのか分からなくなる。
そうしてようやく教室に辿り着いた頃には、もうすぐ一限目が終わろうとする時間になっていた。
控えめに後ろの扉から入ると教壇にいた先生が心配そうに声をかけてきた。
「大丈夫か、山田君」
「はい」
それにつられて、席についた生徒たちも振り返る。定時制高校の生徒は少なく半分ぐらい席が埋まっている。
「あそこに座って」
先生に指定された席の隣にはあずま君がいた。
(やった! あずま君の隣だ!)
僕は嬉々として指示された窓際の席に座った。
授業ではなくオリエンテーションで学校の決まりを説明しているところでだった。それを真面目に聞いていると、前の席の女子が振り返って小声で話してきた。
「ねえ、山田君の家って星空のレストランって本当?」
どこからそんなことを聞いてきたのかと、少し戸惑いながらも僕は頷いた。
「う、うん、そうだよ」
「芸能人とか来たことある? 教えてよ」
なぜそんなことが気になるのかと不思議に思いながらも、最近の来客を思い出す。
「えーと……:W.O.P.(ワップ)のサインなら貰ったよ」
W.O.P.とは、二人組の男性アイドルグループだ。ママがはしゃいで、子供に見える僕にサインをもらって来るよう仕向けたのは昨夜のことだ。
「まじ!?」
「えっ!」
興奮した女子の声に混じって、隣からあずま君の声が聞こえてきた。会話を聞いていたのか、彼が興味を持っているのは顔を見れば明らかだった。
(あずまくんが食いついた。……意外)
てっきり芸能人に興味がなさそうなタイプだと思っていた。しかし、これは使えるかもしれない。
そんなずる賢い考えが浮かんだ時、教壇にいた先生が後ろを向く女子生徒に注意をした。
「ちゃんと前向きなさい」
彼女との会話はそこで途切れた後、僕はホームルームの間、ずっとあずま君を家に誘う口実を考えていたのだった。
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