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第6話
放課後、あずま君はなんの疑問も持たず、僕と一緒に下校した。あずまくんの家はレストランとは正反対だったから、家に遅くなると連絡してからくれた。僕の家は山の中にあるから、最寄駅からはスタッフが迎えにきてくれる車に乗って移動する。
つまり僕の家まで来てしまえば、彼は逃げられないのだ。ふふっ。
僕らがレストランに着く頃には十時ごろになっていた。普通のお店ならラストオーダーも終わっていておかしくないけれど、僕らのお店はこれからがゴールデンタイムだ。駐車場には高級車がたくさん並んでいる。
ログハウス調の平屋のレストランは壁一面がガラス張りになっていて、中から黄色い灯りが見えていた。
外から見えるのは受付だけで、中に入ってしまえば全て個室に仕切られている。それが芸能人に気に入られるところかもしれない。
受付の魔女に軽く挨拶をして、店内に入る。そしてパパが用意してくれた個室に入った。
木製の扉をあけると、中は丸いテーブルを挟んで二つの椅子がある。扉の壁側にはソファまである。その部屋を幻想的にしているのは窓から見える夜景であった。星空の下に宝石を散りばめたような小さな光が広がっている。
「へぇ、すごいな」
あずま君は感嘆の呟きを漏らすと、夜景に吸い込まれるように窓へ移動した。その素朴な反応が僕には新鮮に見えた。ここに来るのはお金持ちが多いから、夜景も見慣れた人が多いのだ。
「夜景は初めて?」
「うん」
僕は食い入るように夜景を見つめるあずま君の横顔を眺めた。彼の瞳は七色の光が反射してキラキラ光っている。声をかけるのもためらって、しばらく彼を見つめていた。
やがて、あずま君はぽつりと尋ねた。
「ノブはいつ来るの?」
「ノブは来ないよ」
それまで釘付けになっていた視線が僕に向けられる。きょとんとした顔だった。僕が言ったことをまるで理解していない顔。その彼に僕はさらに言葉を重ねた。
「僕ね、あずま君を騙したの」
「え……なんで」
「君をどうしてもここに連れてきたかったから」
そこまで言うとようやく理解が追いついたようで、楽しげだった表情がどんどん曇っていく。
「……なんだよ、それ。だからって騙すことないだろ」
彼は窓から視線をそむけるようにして僕を睨んだ。
「お前がそんな嘘つきだとは思わなかったよ!」
「あのね、嘘をついたのは君にどうしても本当の僕の姿を見せたくて」
「本当の姿?」
「僕、本当は……」
僕は目を瞑って意識を集中させた。そして今までの擬態を解く。僕の耳は細長く尖り、唇からは牙が覗いた。そして、最後にビリっという布が破ける音ともに僕は背中に羽が生やした。
「吸血鬼なんだ」
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