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第7話

 あずま君は目の前で変身した僕を唖然とした顔で見つめている。そんな彼ににんまりと微笑んでみせた。  僕が一歩踏み出すと、彼はすくんだように壁に背中をぴったりと当てて少しでも距離を取ろうと警戒している。 「な、なんだよ、その牙……、冗談だよな?」 「冗談なんかじゃないよ。君の生気が欲しい」 「え、……せ、性器?」  素っ頓狂な彼の声が部屋を響かせる。この時、彼は盛大な勘違いをしていたのだけど、その時の僕はそれを知る由もなかった。 「うん。僕は今まで生気を吸って生きてきたの」 「お前、なんつーもん吸って生きてんだ」 「だって、それがないと生きていけないんだもん」 「まじか……」  彼の感情がわずかに変わったのを感じた。それまで怒りや警戒心に溢れていたけれど、哀れむような目を向けられたような気がする。  僕は簡単にこれまでの経緯をあずま君に説明する。 「今まではパパが連れてきてくれた人の生気を吸ってたんだけど、もう自分で探してこいって言われて……」 「連れてきた人の性器ってお前、それ売春じゃないか」 「え、違うよ」 「言いたくないけど、お前の親は最低だよ!」  あずま君は怒って声を張り上げた。その怒りは僕ではなく僕の親に向いているようで、戸惑う。彼の怒りの理由がわからず、とにかくなだめた。 「パパのこと悪く言わないでよ。今までパパに甘えてた僕が悪いんだ」 「だけどさ……」 「りあむ」  言いかけた僕を遮り、あずま君は壁を離れこちらに歩いてくる。肩に手を置いて真剣な眼差しを向けた。 「お前が今までどんな環境で生きてきたのかわからないけどさ、母親が男になったり、父親がお前に変なモン吸わせたりさ……お前の環境普通じゃないよ」 「あ、ママは……」  男じゃないよ。  そう言いたかったのに、あずま君に「最後まで聞けよ!」と怒鳴られてしまって、口をつぐんだ。彼は訴えるように澄んだ視線を僕に射る。 「俺は、お前が自分を安売りするような真似はしないでほしい。りあむはこんなに、か……可愛いじゃん。そんなことする必要ないよ」 「本当?」  突然褒められて僕の頰は熱くなった。なぜ彼がそんなことを言い出したかまではわからないけれど、彼の言葉は純粋に嬉しい。あずま君も怒りを引っ込めて少し照れたように視線を落とした。 「お、おう。だから、俺にできることがあったら、なんでも言ってくれよ」  肩に手を置くほどの近い距離に立っているあずま君を見上げ、僕は甘えるように尋ねた。 「じゃあ、生気吸わせてくれるの?」 「いや、だからそういうのじゃなくて」 「なんでもって言ったのに」 「だからそれは……」  はっきりしない彼に抱きつくと、反論は途切れた。狂ったように脈打つあずま君の鼓動を感じる。僕は背伸びをしてその耳元で囁いた。 「ねえ、お願い。僕、君の生気が吸いたいんだ。元の体に戻るために」 「元の体って……?」  戸惑ってはいるけれど、拒絶を示さない様子に小さく笑いながらその首筋に唇を寄せた。

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