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薫が自分の性的指向に違和感を覚えたのは幼稚園の時だった。
絵本や劇で主役の王子様に助けられるのはいつもお姫様――可愛い女の子だった。男の子は王子様に助けられたりはしない。それが不思議で仕方がなかった。けれど、周囲の友達はもちろん大人でさえもそれを疑問に思う様子はなかった。
王子やヒーローが姫を救い出すシーンはどの話でも最高潮の見せ場だったが、薫にとっては王子が傷ついた戦士を庇うシーンや、親友の男の子を励ますシーンの方がずっと興奮した。自分も王子様に助けられたいと思い、一番近くで王子を励ます特別な存在でありたいと願った。
同じようにダンスやお遊戯でも、可愛い女の子と手を繋ぐより、凛々しくて頼りがいのある男の子と手を繋ぐ方がドキドキした。心がときめいた。
――この感情は本来、異性に抱くものらしい。
その疑問がはっきりしたのは小六の修学旅行の夜だった。
旅館の就寝点呼が終わった後、班のみんなで布団を寄せ合って顔を出し、好きな子について語り合った。当然のように皆が好きな相手はクラスの女子で、その顔やスタイルについてお互い批評めいた事を口にした。
薫は誰が好きなの? と訊かれて、好きな女子の姿が一人も思い浮かばなかった。
出てくるのは、よく知った幼なじみの姿や、塾の友達や先生の顔。
全員、男性だった。
ああ、そうかと思った。
自分は女の子になりたいわけじゃない。だから、ずっと普通なのだと思っていた。少し発達が遅れているだけで、いずれは女の子と恋をして結婚し、子どもを設けて普通の人生を送るのだと、そう思っていた。
けれど、違った。
どうやら自分は男の姿のままで男に愛されたいと思う人間らしい。
その存在はなんとなくだが知っていた。同性婚やゲイという言葉も聞いた事があった。
それでも怖かった。皆と違う事が怖かった。世界で一人、取り残されたような気がした。
薫はその答えを求めるように小説を読むようになった。人と違う理由を見つけたかった。フィクションの世界は薫の教科書であり、癒しであり、救いでもあった。
高校に進学し、自身の性的指向をはっきりと認知してからは、より性格が内向的なものになった。薫はますます本の世界にのめり込むようになった。
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