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『本当の事を言うよ。僕は中学の時、苛められていた。プールの授業の時、更衣室で同級生の体をエロい目で見たって、からかわれたんだ。キモいオカマ野郎だって言われた。でも、本当はそうじゃなかった。僕は相手の事が好きすぎて裸を見れなかったんだ。裸どころか顔さえも見れなかった。その時の僕は興奮ではなく、苦渋に満ちた表情をしていたと思う。見る事さえできなかったのに……目を逸らしたから、ゲイである事がばれてしまった。怖かったし、どうしようもなかった。悔しくて寂しかった。……隠していてもばれてしまう。普通にしようとしてもできないし、普通が分からない。だから、この学校に来てからは友達を作らず、誰とも目を合わさずに過ごしてきた。今の所、ばれてはいないと思う。でも、もう時間の問題なのかもしれない』  薫は自然に、自分の心の内とこれまでの出来事を吐露していた。  人と関わるのが怖い。誰かを好きになるのが怖い。  それは自分の気持ちを止められないからだ。  親子関係、教師と生徒、先輩と後輩、クラスメイト。枠組みのある人間関係を構築できても恋愛はそうはいかない。なんの前触れもなく、なんの用意もなく、人を好きになってしまう事があるからだ。  どうしようもないのが恋愛だ。  それが――怖い。  自分と相手と、それまでに築き上げてきたものを一瞬で壊してしまうのが怖い。 『辛い思いをしたんだな。もし過去に戻れるのなら、そいつらを纏めてぶん殴ってやりたい。傷ついたKを守ってやりたい。だが、これだけは言える。おまえは何も間違ってはいない。間違っているのはそいつらだ。おまえが自分を卑下する理由は一つもない。Kは悪くない。これは本当だ。……言葉だけで何もできなくてごめん』 『謝らないで。Xがそう言ってくれるだけで嬉しい。ありがとう』  結局、現実を一番受け入れられないのは自分自身なのだろう。  それは分かっていた。  これからどうなるかも分からない未分化の状態で、アイデンティティも確立していない十代の自分に全てを受け入れろというのは確かに酷な事だ。逃げ出したくもなる。けれど、いつまでも逃げ続けられないのは分かっていた。  この現実を受け入れて前に進まなければいけない。  生きる事が、恋する事が、戦いになっても、そうするしかなかった。  こちら側を選ぶのなら前を向いて戦うしかない。  ――僕は、そろそろ顔を上げたい。  Xの言葉が、怯える自分の背中を押してくれる気がした。

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