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第2話

 これが都会の満員電車。上京する前から覚悟はしていたけどこれほどとは。会社に勤め始めて一週間ぐらい経つけど未だに慣れない、というか慣れる日なんて来るのだろうか。人が人の形を保つためのスペースすら確保されていない。つり革に全体重をかけていないと人の重圧に飲まれてしまいそうになる。それにちょっと臭い。会社に向かうだけで精神も体力もゴリゴリに削られている。世の中の社会人すごすぎるだろ。あぁダメだ、しんどすぎる。こういう時は意識を違うところに飛ばすのが一番だ。ぼくは目を閉じあの日の夜を思い出す。そういえばあの日もまた、一週間ぐらい前のことだっけ。  まさか引っ越し先のアパートで、隣の部屋に高校の同級生が住んでるなんて。しかもあの金田くんだなんて。  金田くんはぼくの高校の人気者だった。人気者なんて抽象的な表現だしこのご時世にいるの?と思うかもしれないが彼は本当に人気者だった。朝教室に入ってくるときも、授業の間の5分休憩も、昼休みも、掃除の時間も、下校中もいつも友達に囲まれていた。友達だけじゃない、先生もだ。普段絡みのない、というか友達が一人もいなかったぼくにすら彼の噂は届いていたのだから彼は本物の人気者だったと思う。しかし彼は高校3年間誰とも付き合わなかった。  だからぼくにとって彼は格好の餌食だった。背が高く、容姿も整っていて、声もちょっと低めで、恋愛面において余計な情報がない彼。ぼくは彼に理想のスパダリ像を重ねていた。生徒会長の吉田くん。理科教師の吉崎先生。みんなに嫌われていた教頭先生。頭の中でもうほとんどの男子生徒と男性教師を金田くんと絡ませていた。放課後の教室、体育倉庫、更衣室、普段使われていないトイレ。そのあらゆるシチュエーションにおいて時には天井のシミに、またある時には観葉植物となって彼らの性交渉を眺める。そんな妄想に勤しむ高校生活だった。あぁ有意義な青春だった。だから今更彼とお隣さんになるなんてちょっと申し訳なさと気まずさがあったりする。そもそもぼくと金田くんって喋ったことあったっけ?あったような…ん〜。  そんな思考が吹き飛び、宙に浮かんでいたぼくの意識がぼくの身体へと戻ってきた。いや戻ってきたというよりは頭からまた別の場所に意識が集中していった。ぼくの意識はぼくのお尻へと向けられていた。  触られている…?  いや偶然当たっているだけ……じゃない!触るどころか揉まれてる!あまりに突然なことで声が出ない。ぼくは恐る恐る車窓を見て後方を確認する。  太っていて、ハゲ頭で、脂ギッシュで、メガネが反射して目が見えない。  モブおじさんだ!  こんなスタンダードタイプのモブおじさんがいるなんてさすが都会だ!でもあんまりモブ姦って好きじゃないんだけどな。かわいそうになってくる、まぁ絵柄がエロかったら問題ないんですけどね!っていってる場合じゃない!すごい触ってくる…。モブおじさんの生暖かい息が耳元にかかる。すごく気持ち悪い。怖い。嘘だろ。ぼくの社会の窓に手をかけるな、やめろ。チャックをもつな、下に降ろすな、中に手を入れて……こない。 「おい何やってんだよ」  振り返るとモブおじさんの手を持つ男性が…っていうか。 「金田くん?!」 「伊藤…」  モブおじさんに痴漢され、絶体絶命のピンチを救ってくれたのは高校時代の同級生で、住んでるアパートのお隣さん。  なんだかとってもBLっぽい

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