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第3話
ひどい目にあった…。いや、まだひどい目にはあってるんだけど。
まさか男のぼくが痴漢されるなんて。しかも助けてくれたのが金田くんなんて。怖さとか恥ずかしさとか、いろんな感情が混ざってあの場から咄嗟に逃げてしまった。帰ったらちゃんとお礼を言おう。金田くんが隣に住んでてよかった。
「おい、聞てんのか!」
もう一つのひどい目。あの時ぼくはあの電車から飛び降りてしまった。3駅も前の駅で。おかげで大遅刻をしてしまい、先輩に怒られている最中だ。
「すみません、あの…ぼく、痴漢されて…」
「痴漢?そんな嘘が通用すると思ってんのか!新人のくせに遅刻するなんて信じらんねぇわ!今日は取引先との大事な会議があるといっただろ!」
「…ですが」
「先輩が説教してる時はな!新人はすみませんって謝ってればいいんだよ!いちいち反論してくるその根性がもうダメなんだよ!」
「…すみません」
「だいたい社会人ってのは…」
ぼくはひたすらに頭をさげる。こうなってはもう先輩の怒りが収まるのを黙って待つしかない。モブおじさんにお尻を触られて、先輩の逆鱗に触れて、今日は災難だ。
「そんなことで社会人が務まると思ってんのか!」
「あの」
「あ?」
頭を上げると、スーツ姿の男性が…っていうか。
「金田くん?」
どうしてここに金田くんが?
「ちょっと言い過ぎじゃないですか?彼も色々事情があって時間に遅れてしまったわけですし」
「誰だか知らねえが、関係ないやつは引っ込んでろよ。どこの部署の若造か知らねえけどよ。お前も目上の人にはたてつくんじゃ…」
「おお、そこにいらっしゃいましたか」
後方からの声の主はぼくと先輩の直属の上司である部長だ。
「どうしてここに?」
「君たち、もう挨拶は済ましたのかね」
「え?」
ぼくたちを素通りし、部長は金田くんの横に並ぶ。
「こちらは取引先の社長のご子息で、次期社長の金田悟さんだ」
「え…え?」
「まだまだ未熟な若造ですが、どうぞよろしくお願いします」
「あ……」
今朝、痴漢から助けてくれた彼は、取引先の会社の御曹司。
なんだかとっても、BLっぽい。
金田くんは真っ青な顔をした先輩の横を素通りし、ぼくの耳元で囁いた。
「今晩、食事行くぞ」
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