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第4話

 高層ビルの最上階。街の夜景が一望できる。あの鉄塔の左側。あそこにぼくの住んでいるアパートがある。それは金田くんも住んでいるアパートだ。外を眺めていると目の前に大きなお皿に乗った小さな料理が出てきた。シェフの説明を聞いてもちんぷんかんぷんだった。周りをみても上品そうな男女のペアが丸いテーブルに向かい合って座っている。ぼくの目も前に座っているのは金田くん。男同士で座っているのは僕たちだけだ。それにスーツとはいえこの場で安いリクルートスーツを着ているのはぼくだけだろう。明らかに場違いだ。 「こんな、高そうなレストラン…ぼくお金もってないよ」 「気にすんな。ここはうちのグループ傘下の会社だ」 「そうなんだ…」  金田くんはシャンパンが入ったグラスを手に持ちぼくに傾ける。 「久しぶりの再会に、乾杯」 「…乾杯」  ぼくも慌ててグラスを持ち、金田くんのグラスにそっと当てる。  ぼくたちは昔話に花を咲かせた。と言っても共通の友達がいるわけでもないし、そもそもぼくたちは学生時代関わりがなかったから金田くんの話は新鮮に感じた。そして話してみてわかった。彼はやっぱりみんなの人気者だったんだ。話は面白く、かと言って誰のことも悪く言わない。自慢話もせず、むしろ友だちの幸せを自分の幸せのように語る彼。そんな彼を、ぼくは。 「金田くんって本当にいい人だね」 「え?」 「アパートの廊下で久しぶりに会った時、伊藤って名前を呼んでくれて。金田くんみんなの人気者だったからさ、ぼくみたいな日陰者のことなんてもう忘れちゃってると思ったから」 「忘れるかよ、絶対に」 「やっぱり君は…」  あれ、ぼくはなんて言おうとしたんだっけ。視界が歪む。息が浅く、身体が熱い。 「大丈夫か?」 「ごめん、こんなに高いお酒飲んだことないからなんだか急に頭がクラクラしてきて」 「家まで送るよ」 「いいよ、っていうか家一緒か」 「そうだよ。だから安心しろ」  ぼくは席を立とうとしたが足に力が入らず体制が崩れてしまい、金田くんの胸に飛びついてしまった。慌てて退こうとしたが彼は軽々とぼくを持ち上げる。おんぶでもなく、抱っこでもなく、人生初めてのお姫様抱っこで。 「ちょ、ちょっと!」 「黙って寝てろ」  ぼくを抱える彼は夜景の見える高級レストランで食事ができて、お姫様抱っこもできる御曹司高身長イケメン。  なんだかとってもBLっぽい。  っていうか、金田くんってこんな人だったっけ。

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