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第11話
性行為の最中、腕の内側にチクッと痛みが走る。
見ればそれは……キングが置いていった、注射器。
途端に身体がぶるぶるっと震え、全身の血液が沸騰したように熱くなっていく。
「………せん、ぱ」
「ハァ、ハァ……これ、最高だろ。……なぁ、柚希」
目の前が、突然パアッと明るくなる。快感を逃そうと眉根を寄せ、息を切らしながら汗ばむ先輩が、キラキラと輝いて見え……
「………うん……きもち、い……」
薬漬けのセックスは……怖い程に蕩け、全てから解放され……確実に僕と先輩を現実逃避してくれた。
幹部候補の誰かが持ってきていたという手錠を二つ見つけた先輩は、僕の手足を拘束した。
逃げられないようにと、鎖で繋いで。
まるで──飼い殺しの犬。
この関係は、対等ではないという証。
喉の潤いと腹を満たすものは、先輩から溢れ出した……甘い蜜液──
「……見ての通り。腕、穴だらけだろ……
僕も、ジャンキーって事」
「ていうか、何で逃げねぇの?……こうすりゃ、すっぽ抜けるじゃん」
山下は、痩せ細った僕の手首を手錠の輪から抜き取った。
いとも簡単に、左手だけ自由になる。
「……」
それだけ、痩せこけたって事だな。
「……でも、いいんだ。もう……
山下は逃げなよ、ちゃんと。
多分もうすぐ、先輩戻ってくると思うから……」
力無く答えると、山下が僕の左手首を掴んだままグイと引っ張り上げる。
「あのさ、俺も話していい?」
そう言って、手首の内側に頬を寄せる。
「キングが言ってたブス。……あれ、うちの妹なんだよね」
……え
心臓が、止まる……
「まぁ、高校別々になってから、あんまり柚木と連んでなかったからさ……覚えてなくて当然なんだけど。
高校時代の先輩が、俺の妹にベタ惚れしちゃってさ。しょうがねーから妹に、友達一人連れて来ていいからって説得して……四人で遊びに来たんだよ。
……でもさぁ。うちの妹、先輩を生理的に受け付けなくて。友達と仲良く姿眩ませちゃってさ。
んで連絡ついたと思ったら、男連中に拉致られてるっつーじゃん。
場所聞いたら、強化合宿所 だし。
先輩にそれ話したら、血相変えて車で飛び出しちゃってさぁ……」
淡々と語る山下の顔が、不気味に歪んでいく。
「……」
──え、待って。
それじゃあ、渡瀬先輩が刺した……あの男性って……
山下の、先輩……?
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