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第8話

ドクンッ── 喉が、渇く。 舌の裏に残った僅かな唾液が、粘質を持って滑る。 震える手を伸ばし、布の端を掴む。 剥ごうとするものの……上手く、指が動いてくれない。 ……まさか…… まさか…… 「………ゆず、き……?」 そこにあったのは 眠った様な顔の、柚希── 「……」 ……なん……で…… 何でだよ。 ……何で柚希が、殺されなくちゃならないんだよ……! ──包丁。 そうか。 止めようとした柚希を、先輩が…… 「俺は、殺してねぇよ」 見上げた僕に、先輩が冷静な声で否定する。 「キングの登場で、ピンときたんだろうな。……迂闊だった」 女が帰ると騒ぐ、少し前。つまり、僕がパシられて合宿所を出た直後──キングが、降臨した。 『良く見ると、……ブスだな』 キングは、ひと目見た女性二人を足蹴にし、冷えた唐揚げをつまみ食いする。 美味そうなのは、こっちだと言わんばかりに。 その唐揚げが、予想以上に美味かったのだろうか。 台所へと向けたキングの目に映ったのは、健気に後片付けをする、柚希の姿。 その前に立ち、柚希を値踏みをした後、キングは無言で彼女の手を引き、奥の部屋へと消えていった。 「……まぁ、やる事といったら、アレしかねぇだろ。 その間に、俺らはひと悶着あって…… で、コイツを刺しちまった後、木下や他の幹部候補全員に凶器を渡して、瀕死状態の奴が死ぬまで、一人ずつ順番に突き刺すよう……お願いしたんだ。 やらなきゃ、レイプ映像をネットに流すって言ったら、みんな素直に従ってくれてさ……」 「……」 脳の奥で響く、細くて高い不協和音。 耳鳴りのようなそれが、僕の理性を壊そうと劈く。 「で。掘る元気がありそうなコイツらをここに運んで……戻って来た所で、丁度キングが部屋から出てきてな。 『クスリ打っといたから、大人しいうちにヤッていいぜ』って、言ってきてよ……」 「……」 ……それは、つまり…… 柚希を払い下げた……って事か。

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