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第3話
二年に上がった現在、目の前にその堪らない物体があるのだ。
この位置はヤバいと座って一瞬で危機感を覚え、ふらふらと立ち上り一旦教室の隅へ移動する。
あのもふもふした丸い頭を触りまくりたいとか顔を埋めてみたいとか、次から次に襲ってくる欲求を抑えることができるのは、いままでしてきた厳しい稽古と日々の鍛錬のおかげで、なんとか襲い掛かるのを杭止めている。
「女子が少ないからってこれはあんまりだろ!?女子と料理とかスイーツの話とかしたい!!」
蒼汰がなにやら力説しているのは、この学校の女子の割合で数年前から急激に減り、二年は学年の一割ほどしかいない。
「あれ?後ろの席の姫野万矢ちゃんってどの子?万矢ちゃん以外周り野郎ばっかってどーゆーことだよ。万矢ちゃーんはやくー仲良くしよーっ」
「うるせぇ前向け、ひよこ……姫野万矢だ。男で悪かったな」
「うそ!万矢ちゃんっておまえ?さささ……詐欺だー」
「……てめぇ」
「そうちゃんどうしたの?」
「雅貴ーこのデカい犬、万矢ちゃんとか可愛い名前でふざけてるんだよー」
「まやちゃん!?えっ?あれ?」
雅貴と呼ばれた人物には見覚えがある。あの時、あの場所にいたヤツだ。
「……お前ら、沈めるぞ」
「キャー真矢ちゃんが怒ったー怖いー」
女好きのこのバカな男のことを思い続けてきたのかと頭を抱えそうになる。雅貴は気付いたようだが、蒼汰は万矢のことを覚えていないようで普通に会話出来てすこし安心している自分がいる。
「まーやーちゃん、なぁ、怒ったのか?」
「……お前とは話したくねぇ」
「ごめんって。これ喰え」
いきなり入れられたものはサクサクしていて口の中で一瞬で消えオレンジの香りと優しい甘さに怒りも一瞬で消えていく。思わずもう一度、口を開けて催促してしまった。
「うまいか?」
モゴモゴ口を動かしゆっくり頷くと、またひとつまたひとつと甘い香りのするものを口の中に放り込まれた。あの時はあまり見られなかった顔をじっくり近くで拝んでみる。
可愛い系と言うより美人系。小さな白い顔、気の強そうなすこしつり目の切れ長の瞳、小さな泣き黒子、薄い唇の横にまた小さな黒子。自分に向けて微笑む顔が綺麗で目が離せない。万矢は二度目の恋に落ちた。
「万矢ちゃんかわいいじゃん……」
わしわしと頭を撫でる手が気持ちが良くて、されるがままにさせている自分に吃驚するしかなかった。
それから、授業中、モフモフした丸い物体を眺めるのが毎日の楽しみになっていた。
『首ほせーな……項やべぇ……色白っ』
思わず手を伸ばそうとして慌てて反対の手で抑えたりで大変だが、既の所で止めているから誰にも気付かれていないだろう。
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