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第4話

ある日、四限が始まる前、教科書忘れたと、一言漏らした蒼汰が、いきなり後ろを振り向き隣の休みの席に座ってきた。ガタガタと音を鳴らし机を寄せてきて、一緒に見せてとにっこりされた。 おまえの隣から見せてもらえと言うと、やだ隣、男だしと返ってきて、わけがわからず黙っていると、もう隣に座っていた。 四限は万矢にとって地獄だ。お腹が空きすぎて死にそうになる。弁当は朝練が済んで腹に収まったから疾うの昔にない。万矢のぐうぐう鳴るおなかに蒼汰は笑いが止まらない様子だ。こいつ……と思いながらも、ドキドキが止まらない。あとすこしで触れられるくらい近くに蒼汰がいるのだ。 笑いを堪えながら、有ろう事かぐいぐい寄ってきて体を万矢に預けるようにした蒼汰が万矢のノートの端に書き出した文字を読む。 『おなかすいてんのか?終わったら見せてくれたご褒美やる』 『ご褒美ってなんだよ、俺は犬じゃねー』 『ごめん。おまえ、わんこにしか見えねぇから。昨日、アップルパイ焼いたから……喰う?』 大きく頷くと、間近で見てしまったとびきりの笑顔が可愛くて堪らない甘い香りに視界が揺れる。もういいだろう?おまえは今までよく我慢したよという声が脳内に響き、理性という鎖がパラパラと砕ける音がした。 となりで笑っている柔らかそうな頬が美味しそうで唇を近づけてベロリと舐めてやった。さっきまで、笑い転げてた蒼汰が身動ぎひとつせず硬直している。やってしまったと思った時はもう遅かった。いや、これはこいつが悪い。こんなに密着してきて可愛い笑顔を見せてくるとか、こっちは限界突破しそうなのを毎日押さえつけているんだからこれくらいで済んで誉めてほしいくらいだ。この日から、万矢はもう思いを隠すのを諦めた。 『美味かった』 ノートの隅に書いてやると、耳辺りがみるみる真っ赤になり、殴り書きしてくる。 『なんだよ、笑ったから仕返しかよ!』 『いや、美味そうだったから喰った』 『わんこかよ!』 授業終了のベルが鳴ると同時に後ろが騒がしく立ち上り、がたーんと椅子が倒れた。 「なっ⋯⋯なんスかーさっきのー!ふたりともイチャイチャしすぎじゃ……」 雅貴が叫ぶとふたりにギロリと睨まれストンと椅子に座る。 「……オレは……なんにも……なんにもみてない」 雅貴が後ろからブツブツ何か唱えているのが聞こえたが無視した。

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