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第5話
「万矢ちゃーん、後輩くん来てるよー。笹原美波くんが呼んでるー廊下ー」
教室の入口から顔をひょっこりと出した蒼汰から空手部の後輩の名を告げられ、わかったと出ていくと、蒼汰が美波になにか渡していた。美波は頭を何度も下げて、顔を真っ赤にしている。そんな美波の頭を撫でて内緒話するみたいに耳打ちすると美波はますます動揺してフラフラだ。蒼汰は万矢の姿を確認すると、美波にじゃあねと、手を振って教室に戻っていった。
ひとつ下の美波は万矢の祖父の道場に通っている後輩だ。もう随分前からの付き合いでもう兄弟と言ってもいいくらい長い付き合いだ。
蒼汰にすこし外見は似ているが、性格は真面目で硬派で雰囲気はどちらかと言えば万矢寄りだ。
美波は、万矢と同じく甘味が好きで、同じくそれを隠して生きてきた。だが、隣街のコンビニで物色中にふたりばったり会ってしまい、それから、甘味仲間でいろいろ情報を交換している。調理部の制作する菓子も当然情報共有しているため、それで万矢の知り合いの蒼汰になにか頼んだのだろうか。自分でさえ、蒼汰にリクエストなんてしたことないから、すこし嫉妬に似たものが渦巻いた。
「おつかれさまッス、万矢部長!」
万矢の姿を目にして、礼儀正しく、気を付けをして頭を下げ、今日の部活は武道場が使えないから体育館で行うことを報告をしてくる、美波の手に持っている可愛らしいピンクのうさぎがプリントがされた手提げ袋を覗き込んだ。様々な色のシフォンケーキが沢山入っているのが見えた。
「美波、蓮見と知り合いなのか?それ、なんだ?」
ぶわっと美波の白い肌が耳から首にかけて見る間に赤くなる。
「あ、は……はい、あの……こ……これは廉さんが……いえ、上野……先輩の……」
いつもハキハキと話す美波が、真っ赤になってしどろもどろになっているのが可哀想になってきた。なぜ上野や蒼汰と知り合いなのかと、はてなマークが飛んだが、美波を解放してやった。
蒼汰に美波と知り合いなのかと聞いてもよかったが詮索しすぎのような気がして止めた。
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