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第6話

今日は晴天で、風が気持ち良くて、昼前の国語の授業は眠気を誘ってきたが、なんとか乗り切った。外でお昼を食べたいという蒼汰に万矢は付き合った。 喧嘩ばかりして性格も全く違うふたりなのになぜか一緒にいるのは、言いたいことを言い合い、気兼ねしなくてすむ心地よさからだろう。 万矢は売店でパンでも調達するかと蒼汰に先に行っとくように言うと、おまえの分もあるからと、蒼汰は大きな紙袋を見せてきた。 万矢が常におなかを空かせたわんこと蒼汰が認識してから、週二度程、作りすぎたからとかの理由で万矢の分まで多めに弁当が用意されるようになっていた。 蓮見家の弁当は、万矢が美味いと思うものしか入っていなくてまるで自分の好みを知って作られたものではないかと思えるくらい美味いのだ。 ふたりで中庭にある庭園に向かい、大きな木の下のベンチに座った。今日の弁当も、なんとも自分好みの優しい味付けで箸が止まらない。 「蓮見の母親料理上手いよな。てか毎回こんないっぱい頼んで大丈夫なのか?」 「……オレが作ってんだよ、弁当」 「……は?」 「オレんチ、母ちゃんいねーから隆太と兄貴と姉貴の分作ってる。あ、隆太は、親父ね」 蒼汰の父親は小児科の医者として総合病院に勤務しており、仕事時間が不規則で夜勤や急患が多く、食堂に行く時間も録に取れず、食事が早く食べれるカップ麺とかになってしまうため、一食ぐらいはまともなものを食べてほしいとお弁当を持たせているらしい。ついでに言うけど、お前が今まで喰ってきたものすべてオレの手作りだ、ありがたく思えとにっこりされたから、蓮見様ありがとうございますと、手を合わせて拝んでおいた。 「蓮見も将来、医者になりたいのか?」 「オレ?オレは無理。それに双子の姉貴と兄貴が医者目指してっからオレはいっかなーと。姉貴たちは要領いいしサクサクーっとなんでもやれるけどオレは無理。好きなことやれって言われてっから幸せだ。卒業したら調理師の専門学校行く。んでなんか食いもん作る道に行く。かっこいいモテモテ料理人になる!で、……万矢ちゃんは?」 「俺は体動かせる仕事ならなんでもいい……消防士とか興味ある……って、なんだよ、その顔」 「格好良すぎだろ。お前が消防士とかさ、想像するとヤバいわ」 「ん、じゃ決定だな。俺、お前が俺のこと格好いいと思える職業につくわ」 お腹がいっぱいになって眠くなり自分が何を言っているか曖昧な中、もう隠すのは諦めているからか、蒼汰を好きなことがバレてもいいと思いはじめている頭があまり働かず自然と本音をぶちまける。 「……あほかっ!なんだそれ!真剣に考えろ!なんでお前こんな冗談、絶対言わなさそうな奴なのに……最近いつも急にそんなウソ言ってきやがって……バカにしてんのか?」 此のところ、万矢が危うい発言を匂わせて蒼汰がキレる、こういう場面が多くなってるから、告白して砕け散るのも時間の問題だろう。だからもうすこし今この時間を大切にしたい。 「あーもううるせーだまれひよこ、おい、膝貸せ」 「はぁ?ちょ……この言い合いの途中で寝る神経どーなってんの?いやーなにこの恰好ーいやー憧れの膝枕がーてか、してるのオレか。セーフ」 「うるせぇ、だまれ。ちょい寝る。はぁ……ゴツゴツしてんなーもちっと太れ」 「文句言うなら使うな」 膝枕を要求したが、ほんとは蒼汰を抱き込んであまいにおいを嗅ぎながら眠りにつきたい。じーっと上から蒼汰が万矢の顔を覗いてきて、目の下を親指の腹でなぞられて、なにしてんだと薄目を開けた。 「お前毎日夜更かしとかしてんのか?目の下クマ出来てんぞ。なにやってんだ?まさか……」 「エロいこと考えてんじゃねぇ」 「エエエエ……エロいこととかかかかかんがえてねぇ!」 「声、デケぇよ……」 万矢は毎日朝練二時間に加え、部活を終え帰ってからも祖父の道場で練習していた。その練習時間をまた最近増やしたからクマはその代償だろう。それもこれも体力を使いきらないと蒼汰に何をしてしまうかわからないからだ。蒼汰には練習時間を増やしたとだけ伝える。 「頑張りすぎるなよ」 頑張って体力削いでなかったら、おまえは今頃喰われてるぞと言ってやりたい。 「俺がやりたくて、やってるから大丈夫だ。寝る。授業始まる五分前になったら起こせ」 髪をなにか気持ちのよいもので撫でられ、それを捕まえ唇に当てるとなにか喚く声がしたが、そのままにしてくれた。良い香りのする心地よいふわふわした温もりに包まれ眠りに埋もれていった。

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