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Ⅰ 嘘つきの恋④
俺はフルメタルアーマーの花嫁になった。
って!ちょっと待ってー!
「どうしたんだい?陰毛の色、まだ気になってるのかい?」
「そうじゃないわーッ」
「お兄ちゃんが嫌なのだろう。じゃあ夫婦になるしかないね」
「俺はお前……いや、あなたを」
「愛している」
冷たい甲冑なのに……
熱に震えたんだ。
鼓動が打たれてドキドキが止まらない。
「心音が速い。怖がらせてしまったね」
そうじゃない。
あなたはどうして察しがいいのに、こういう時だけ……
「君を護る騎士だと。そう考えてはくれないか。君はどうしても私と関係を持つ必要がある」
言わずとも分かるね?
そう……
(俺は)
(君は)
「私の妻とならねばならない」
「ならなければ、俺は処刑される」
俺は敵国の皇太子だ。
形だけとはいえ皇族には違いない。
「《ブロイエ ファルケ》の名の元に命じる。汝は生きろ」
空色の羽が揺れた。
朝陽を浴びた羽が空に羽ばたいているみたい。
「あなたは……」
「お前でいい」
「でも」
「夫婦は同等。私達は皇族同士だ。上下関係はない」
《空色の鷹-ブロイエ ファルケ-》と呼ばれるあなたは、カイザーライヒ=プレヤーデン次期当主
第一皇位継承者
「グランツ・プレヤーデン様」
「『様』はいらない。夫婦は同等だと言ったろう」
「でもっ」
仮初めの皇太子の俺とは格が違う。
「命令するんだ。君が私に……私が君にそうしたように」
冷たい金属が反響する。
腕から解放された俺の前に、白銀の甲冑が膝を折る。
場違いだ。
こんなの馬鹿げている。
こんな事をしたって、俺の命はあなたの手の中。
虜囚の俺なんて、いつだって手にかけられるくせに。
あなたは嘘つきだ。
「《ブロイエ ファルケ》の名の栄光を称え我、汝に命じる。
汝よ、主君 を護れ」
「Yes , your highness .」
お前は嘘つきだ。
嘘つきのくせに……
キスはどうしてこんなに熱いのだろう。
手の甲に施された誓いが鼓動を蝕む。燃えるように、焦がれるように。
皇族であった時ですら、こんなふうに俺を見てくれる人はいなかった。
嘘だと分かっていても
白銀の仮面の下のお前は、俺を見てくれている。
「俺を護れ。俺は、お前の主君だ」
どうか今だけは顔を上げないでくれ。
偽りの主君だけど。誓いを立てるお前に、こんな顔は見せられない。
泣いたらダメだ。
偽りでも、俺は皇族なのだから……
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