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 裏庭を半分ほど横切ったところで、母屋の硝子戸がカラリと開いた。深い庇が影を落とす広縁にほっそりとした人の姿が立つ。 「どちら様ですか?」 「あ、あの、俺……」 「ああ。今日から離れに入る……?」  新吾が頷くと、白い素足が沓石《くついし》の上のサンダルを踏んだ。どこにでもあるグレーのゴムサンダルに、白い足がするりと器用に滑り込む。  どうしてか、心臓がトクリと小さく騒ぐ。  新吾のそばまで歩いてきて、細い男は春の日の下に立った。  綺麗な男だった。  西洋人形のような細く長い手足を白いシャツとベージュのチノが包んでいる。髪の色も目の色もほうじ茶のような金茶色で、透明な光を集めてきらきらと輝いていた。 「家主です」 「え……」 「ここの」  ひどく若い。とまどう新吾に「ここはもともと伯父の家で、伯父が他界したので僕のものになりました」と家主は説明した。  新吾は頷き、「よろしくお願いします」と頭を下げた。 「藤木《ふじき》新吾といいます」 「知ってます」  花のように、男が笑った。 「僕は、(りつ)花井(はない)律……。律と呼んでください。たぶん、あなたより四つ年上だったと思います」

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