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【2】-1

「スーパーも病院も本屋も床屋も、全部徒歩圏内にあるんだな」  食堂の椅子に腰を下ろしながら新吾が言うと、語学クラスが同じだという理由で親しくなった男女六人がそろって不思議な顔をした。 「当たり前じゃない?」 「藤木は、何を言ってるんだ?」  呆れたように笑われて、続く言葉を発するのが億劫になった。  入学式の前後に盛大にビラを配り、誰彼構わず勧誘していた「サークル」なる組織は、新吾が驚いている間にどこにも見当たらなくなった。  誰かと話をしたいと思い始めた頃に、男子二人、女子四人のこのグループに声を掛けられた。 「今日も一番前の席に座ってたね」  リーダー格の女子Aの言葉に、全員がクスクスと笑い始める。 「暑いのにもっさりしたフリース着てさ……」  女子Bが部屋の隅の小柄な女子を見る。六人の目が一斉に同じ方向を向いた。  彼らは揃って一人の女子を嫌っている。最初の自己紹介の時に彼女がAの間違いを指摘した、ただそれだけの理由で。  小柄な彼女が言ったのはほんのささいなことだった。それがとても小さなことだったから、逆に攻撃の対象になった。 『あんなこと、いちいち言わなくていいじゃないね?』  Aが呟くと、全員が飛びつくようにその意見に賛同した。  共通の憎悪は最も強い結束を生む。その言葉の意味が証明されてゆくのを新吾は黙って見ていた。  今も黙って六人の顔を見ている。  ため息を隠して。 「図書館に用事あるから、俺、もう行く」  新吾が立ち上がると六人が一斉に顔を上げる。 「あ、うん」 「じゃあ、またね」  手を振ってその場を離れ、少し行ったところでビニール傘を忘れたことに気が付いた。 「藤木ってさ……」  テーブルに近づくと自分の名前が聞こえた。 「見た目は、かなりいいと思うんだけど、なんかね……」

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