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side master 2
十五歳になったとき、オレは反抗期を迎えた。その矛先は必然的に多くの時間を過ごしている流伽に向けられた。
「どうせお前も親父に媚売るためにオレの世話焼いてんだろ!」
その頃初めてできた彼女が玉の輿狙いだったのを知り、疑心暗鬼になっていた。流伽はオレのぶん投げた枕を平然と受け止めて、
「いいえ。私はあなたのための執事です。確かに賃金は旦那さまから頂いていますが、旦那さまに媚を売るためではありません」
「ふうん。じゃあオレの命令なら何でも聞くの?」
いつも冷静沈着な流伽に、オレはいら立ちを覚えた。こいつの驚いているところが見たい。
「何でもは無理ですが、できる限りはお聞きしますよ」
「じゃ、オレの足にキスしろって言ったらできんの?」
さすがの流伽も、「ふざけないでください」と怒りを見せるものだと思っていた。
だが。
「かしこまりました」
流伽はベッドに腰かけていたオレの足元に跪き、うやうやしく足を手に取った。まるで、宝物みたいに。素足に履いていたスリッパを脱がせて、オレの目を見ながら甲に口づける。
青い目がオレの胸を射貫くように鋭くて。
(う……あ……)
その途端どくんと心臓が跳ねて、自身に血液が集まるのが分かった。
(な、なんでだよこれくらいで!)
相手は可愛い女の子ではなく、兄のような存在である流伽で。
ましてや性的な刺激を受けたわけではなく、足にキスされただけ。
「もっとしますか? 足の指でもお舐めしましょうか?」
「も、いい! 寝る!」
これ以上何かされたらたまらない。オレは股間の変化を気づかれないように慌てて、布団に潜り込んだ。
つーか。
「断れよ。汚いだろ。足なんか」
命令したオレが言うのもなんだが、断られる前提だったのだ。本当にされたらどうすればいいのか分からない。
「汚くありませんよ。周防さまのものですから」
嫌味も何も感じない流伽の口調に、オレの心はまた揺れて。
「そ、そうかよ。もう下がれ!本当に寝るから!」
「かしこまりました」
パタンと僅かな音を立てて、扉が閉まって。
(ふ……ぁん)
オレはズボンに手を差し入れて自身を刺激した。思い浮かべたのは先ほどの流伽の目。
(もっとしますか?)
若いオレは、すぐに達してしまった。サイドテーブルの上に置いてあるティッシュで汚れた手を拭き、ゴミ箱に放り込む。
キスされただけでこうなったのだから、舐められたらきっとたまらなくいい。さらに別のこともされたのなら……。
無意識に想像して、このときオレははっきりと気づいた。ルカが好きだということに。そしてそれが、兄への思慕とは違うことに。
伝える気はなかったし、男同士である以上、オレたちが結ばれることはないだろう。
でもそれで良かった。ルカと今まで通りずっと一緒にいられるのならそれで。
だけど、それから二年後の高三の冬。そのオレの考えは甘かったということに気づいたのだ。
「なぁ親……」
受験する大学の相談に親父の部屋を訪れたとき。いつも通りノックもせず、ドアを開けようと手をかけると
「お前もいい年だろう。結婚は考えていないのか? 相手がいないのなら、紹介するぞ」
「そうですね……」
漏れ聞こえた会話に手を止める。流伽の声だ。立ち聞きは趣味が悪いと思ったが、興味が会ったのでそのまま聞き耳を立てることにした。
「慕っている方はいます」
その途端心臓が刺されたみたいにドキッとした。
そうだよな……。流伽ほどのイケメンが今まで彼女の一人や二人いなかったのがおかしい。好きな人くらいいるはず。
「ほう。そうか」
「周防さまが私の手を離れたくらいに、気持ちを打ち明けようかと。………受け入れてくださるかは別ですが……」
「何を言っている。お前を受け入れない女がいるはずないだろう」
親父の言うとおり、そんな人いるはずがない。
その後も何事か話していたが、もう耳には入らず、オレは、トボトボと自室に向かった。ベッドに仰向けになる。
(流伽がハーフじゃなければよかった)
背が高くなければ、イケメンじゃなければ、何もできないポンコツなら、優しくなければ良かった。
物語から抜け出た完璧な王子様のような流伽が、振られるはずない。
オレは大学に進学したら、流伽から離れることに決めた。
流伽がオレではない女の子と結ばれて、幸せそうにしている姿を見るのは辛いから。
「ごめん」
幸せを祝ってやれないマスターで。
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