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第3話

沢渡さんがくれた二日酔いの薬のおかげで、頭痛と吐き気は直ぐに治まったけど、見ず知らずに近い美中年が真横で寝そべっている状態でDVDに集中など出来ない。 驚きの大迫力画面に五臓六腑に響き渡る音響設備だったけど、殆ど覚えていない。 右から左への映画鑑賞会三本立てが終わる頃、陽は大きく傾いていた。 佐渡さんが所有する高級車でマンション前まで送って貰い、車から降り立つと人影が近付いてきた。 「青葉。どう言うことだ!」 「坂上さん」 「急に別れたいと言い出すから変だと思っていたが、そういう事なのか?」 思いっきり誤解した坂上さんが鬼の形相で睨んでいる。 これ以上沢渡さんに迷惑をかける訳にはいかない。 「あの、後日改めてお礼に伺います。今日は有難う御座いました……」 助手席のドアを閉め、手を振れば帰ると思ったのに。 何故か沢渡さんは車から降り、俺を背に庇うようにしてたった。 「おい。貴様! どう言うつもりだ」 「南くんのご家族の方ですか?」 「はぁ?」 「彼ね。貧血で道端に倒れていたんで、送ってきたんですけど、貴方は南くんのご家族ですか?」 「いや……」 「それでは、彼とはどういった関係でしょうか?」 「か、関係は…別に……」 恋人とは言ってくれないんだね。 知らない人間にカミングアウトできないと分かってはいても、寂しい。 「関係ないならお引取り下さい」 「何でそんな事あんたに言われなきゃならないんだ!」 「だって、彼と関係ないんでしょ?」 「それは……」 「関係ない人間に家の前をうろうろされたら、彼も安心して休めません。お引取りを」 声も口調も優しいが、有無を言わせない圧で坂上さんを追い返した。 「勝手な事をしてごめんね」 悪いなんて思っていない顔だ。 「でも、あれは止めた方がいい。付き合っても泣かされるだけだ」 「そんなの……」 分からないじゃないか。 そう言いたいのに言葉が喉に引っかかって出てこなかった。 「さあ。帰ってゆっくり休みなさい」 佐渡さんに背中を押され、不承不承ながらマンションへ足を向ける。 エントランスを潜る際に『またね』そう言われた気がしたが、多分幻聴だろう。

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