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第5話

監視カメラを設置して一週間後。 俺は行きつけのゲイバーに居た。 「ささみママ聞いてくれよ~。もう信じられないって言うかなんて言うか……」 「南くん。話が三週目迎えているわよ」 「えー。そんな事ないよ~」 「張り紙していたの坂上さんで、電話もメールも無視なんでしょ?」 「そー。止めろって言っているのに止めないんだよ~」 「もう警察に相談したら?」 「そんな事したら俺も坂上さんもゲイバレする」 「南くんはマンション住人にバレてるじゃない」 そうなのだ。 今までにこやかに挨拶を交わしていたご近所さんが変な目で見るようになって毎日辛いのだ。 「もう、本人直撃するしかないよね?」 「かもね」 「でも、大体側に子供がいるから怒鳴れない~」 「難儀ね」 溜息まじりの言葉と共に置かれた何杯目かのチューハイを煽り、翌日が休みなのをいい事に、永遠とママに愚痴り続けた。 目を覚ますと、目の前にはセレブ臭漂う部屋が広がっていた。 デジャヴ? いや、現実に来た事がある。 ここは……。 「目が覚めたかい?」 「沢渡さん……」 何故に沢渡さん家にいるのだろうか? 「あの…俺、また酔っ払ってぶつかっちゃいました?」 「いや。前にぶつかった時に一緒に居た友人が、ベロベロに酔って道に座り込んでいる君を見かけたと連絡をくれてね。迎えに行ったんだ」 「え…何で態々……」 「ふふっ。面白そうだから」 何だ。その理由。 眩し過ぎる美中年の微笑みに目を細めていると、沢渡さんは右手で顎を取り、親指で唇を撫でた。 「学習しない子だね。正体をなくす程飲んだら危ないって学ばなかったの?」 「携帯と財布にさえ気を付けていれば、わりと大丈夫なんで……」 「そう? なら三度目は悪い事しちゃおうかな」 何それ。イケメンおじさま流の冗談!? 二日酔いで痛む頭でグルグルしていると、沢渡さんは撫でていた唇を離してくれたが。 「ご飯、出来ているから一緒に食べようか」 そう言って、俺の身体を抱き起こした。 しじみ汁で頭痛や胸焼けを癒されながら、沢渡さんの質問に答えていると突然可笑しな提案をされた。 「ここで一緒に暮らそうか?」 「へ?」 「ここなら二十四時間フロントに人がいるし、各階に監視カメラも付いているから安全だよ」 「いや、その……一緒に住む理由がないというか……」 「理由って。僕達友達だろ? 友達がルームシェアするのはよくある話じゃないか」 確かによくある話だが……。 そもそも、友達になった覚えがない! 「うん。そうしょう」 勝手に話を纏めた沢渡さんは携帯を取り出すと、電話をかけだした。 「あ、もしもし。沢渡です。手が空いていたら引越しをお願いしたいんだけど」 「ちょっ! 待っ…!」 慌てて立ち上がる俺を片手で制止、沢渡さんは引越しを決定してしまった。 CMでお馴染みの引越し業者がプロの技であっという間に、俺の家から沢渡さん家に荷物を運び込んでしまった。 不動産屋と大家には何時の間にか話を通され、水道ガス電気の契約云々も終わっており、完全に帰る場所を失ってしまった。 あまりの急展開についていけず放心状態の俺とは反対に、妙に楽しそうな沢渡さんは引っ越し祝いに特上寿司を取ろうと言い出した。 「あの、心の整理の為に一人にして貰っていいですか?」 「食欲ないのかい? 残念だな。幻の銘酒を開けようかと思ったんだけどな」 酒……。 この展開の原因は酒だ。 飲んだら、また何か失敗をするかもしれない。 分っている。が……。 「やっぱり特上寿司頂きます」 俺は学ばない男なのだ。

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