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第6話
いい酒は悪酔いしないと言うが、本当にその通りで、翌日は二日酔いもなく会社へ出勤した。
色々考えないといけない事があるが、一先ず横へ置いておいて退社時間まできっちりと仕事をこなすと定時に上がった。
迎えなどいらないと断ったが、退社時間を教えないと五時から職場前にて高級車で出待ちすると言う脅迫に屈した俺は、沢渡さんとの待ち合わせ場所へ向かい歩き出す。
会社から百メートル先にあるコンビニなどあっという間に付くというのに。
「青葉」
ほんの僅かな時間に元恋人に捕まってしまった。
「お前、ふざけるなよ!」
それはどちらかと言うと俺のセリフなんだが。
「好きだ。愛していると散々言っておいて、条件のいい男が見つかったらあっさり俺を捨てるのか!」
「坂上さん。ここでそんな話は……」
「俺は! お前と家族になろうと本気で考えていたんだぞ! それをお前は……」
通行人から向けられる奇異の目。
ゲイバレしないように人目を気にしていた人なのに、こんな人通りの多い場所で喚き散らすなんて……。
「坂上さん。ここじゃなんだから場所を変えよう」
「うるさい! 俺に命令するな!」
差し出した手を払い除けられ、体勢を崩した俺を力強い腕が支えてくれた。
「南くん。また酔っ払いに絡まれているのかい」
「沢渡さん」
「お前。お前の所為で!」
記憶に新しい男の登場に逆上した坂上さんは、沢渡さんに掴みかかろうと腕を伸ばすが、軽くそれを払われ地面に崩れた。
「南くん。酔っ払いの相手などまともにしたら駄目だよ。こういう時は警察を呼ばないと」
携帯を取り出す仕草に坂上さんは顔色を変えた。
「俺は酔ってなどいない!」
「酔っ払いは皆そう言いますね。まあ、酒が入っていない方が性質が悪いですが」
「お前が。お前が全部悪い! お前さえ現れなければ!」
「結果が違ったとでも? まさか。僕が現れようがいまいが、あなた方の気持ちが確かなら離れたりしませんよ」
沢渡さんの言葉に怒りと悔しさから顔を歪め睨みつける。
鬼のような形相を向ける相手に美中年は腹黒い微笑を浮かべ見下ろすと。
「彼に対する住居不法侵入。名誉毀損。映像に指紋。証拠は揃えています。警察沙汰になったら息子さん。辛い思いをするかもしれませんね」
坂上さんの痛いところを突いた。
「あっ、青葉。あんなにお前になついていた子を悲しませるつもりなのか?」
縋るような目で見詰められ、俺は一歩後ろに引いた。
「俺に二度と関わらないって約束してくれたら、そんな事しないよ」
「本当だな?」
「ああ」
先程までの勢いは何処へやら。子供と言うフレーズに我を取り戻した坂上さんは立ち上がるとこちらと目を合わせようともせずに背を向けた。
何も言わずに立ち去ろうとする背に、思わず声をかけた。
「坂上さん」
立ち止まった背中にずっと言えずにいた言葉をかける。
「俺、家族になる前に恋人になりたかった」
返事もなく遠ざかる背中に、これで本当に終わったのだと寂しさを感じた。
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