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第7話
交番まで迎えに来たのはピカピカの黒い高級車で、どんな人が乗ってるのか疑いたくなる。
その車から物凄い不機嫌顔で下りて来た片桐に後部座席に押し込まれれば、隣にピッタリ張り付いて片桐が乗り込んで来る。不機嫌垂れ流しの様に前席で運転手が首をすくめた。
「何故逃げるんですか、意味がわからない。黙っていれば後継者として将来約束された地位が与えられるかも知れないのに」
そこに意味を感じない俺とそれが大事と思っている片桐とでは、話しても分かり合えない溝が有る。
黙っているとやがて車は俺が住んでいたアパートに到着した。
「昨日、あなたがいなくなった事に気付いてお迎えに上がった時、お母様が引っ越された事を知りました」
車の後部座席に並んだ片桐は前を向いたままだ。端正な横顔はまだ怒っていて、黙って帰った事がそんなに気に入らなかったのかな。
それよりも、俺は置いて行かれたんだ。別に一人で暮らして行けない訳じゃないから、いい。だけどなんで一言も言ってくれなかったのかな。例えば一緒に暮らしたい人がいたとしたら、言ってくれるだけで反対するはず無かったのに。二人で暮らすのに俺が邪魔なら、幾らでも出て行ったのに。
涙がこぼれそうになって、十九にもなって親に捨てられて泣くのは恥ずかしいから俺は窓の方を向いて片桐にバレ無いように目尻を拭う。
「知らなかったのですか?連絡は取られて無かったんですか?」
たかが数日離れる位でいちいち電話し合う親子じゃない。
「私は、知っているものと。むしろ最初から相続を狙って親子して企んでいたのかと」
「相続放棄の誓約書なら今すぐ書くから紙貸して」
「無理です。あなたの場合は成人しないと意味がありません」
「じゃあ俺は見つからなかったって事にしてもう放っておいてよ」
「それも無理です。お預かりした私に責任が有ります」
全く頭の硬い融通の利かない奴だ。真面目に生きてるばかりじゃ損をするって誰かこの執事に教えてやって欲しい。
「屋敷に戻ります」
「やだ」
「何故ですか。行く所が無いでしょう」
「俺は公園で暮らしながらバイトしてアパート借りるんだ。そして一人で生きて行くんだ」
「そんな事出来る訳が無い」
「片桐には出来なくても俺には出来るんだよっ」
はっとしたように一度俺を見た片桐は、ひどく驚いたように目をそらしてもう何も言わなかった。
やがて車が滑るように動き出して、俺は屋敷に連れ帰られた。
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