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第20話
初出勤の前日、リビングで持って行く物の準備を整えていると、仕事から帰って来た片桐に一通の封筒を差し出された。
「保険証です。勝手にすみませんが朝霞様の住所をここに移しました」
それは引越したんだからやっておかなければならない事だ。
「ありがとう。でもそんなに病院ばっかり行って無いよ」
「何かの時は身分証明になりますので持っていて下さい」
受け取ってまた準備に戻る俺を、片桐が見ている。
「それ、確認しなくていいんですか」
言われて俺は貰ったばかりの封筒を見る。
素直に封を開けて保険証を財布にしまおうとした所で、手を止めた。
なんで。
カードタイプのそこにははっきりと、藤堂 朝霞と記入されており名前が違う。俺の名字は高沢で藤堂じゃない。なんで、どういう事。
「片桐」
「なんですか」
「これ間違えてる」
「いいえ、合ってます」
「保険証って名前違ってもいいの?」
「いいはず無いですね」
そうですね。
じゃあこれは一体。
「わかりませんか?」
俺を見つめる片桐が薄く微笑んだ。
「あなたの籍が変わったという事です。お母様の籍から抜け、正式に二郎様の養子になりました」
「藤堂 朝霞って……」
「バイトも藤堂 朝霞で申し込んであります。あなたはもう藤堂です」
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