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第29話
ゆっくりねとお願いした通り、片桐はゆっくりゆっくりやってくれる。それだけで怖さは無くなった。後に残るのは恥ずかしさだ。
裸にされるまでは良かったけれど、最後の砦のパンツを脱ぐのにこそ覚悟が必要だった。
「いや、なんて言うか、それだけは」
「銭湯などで脱いでるでしょ、同じです」
違うと思う。
銭湯じゃこんな目で俺を見る人はいない。
片桐は落ちて来た前髪を手で払う。そうすると髪に隠れていた切れ長の目が見えて、その瞳が熱でも有るみたいに潤んでいた。
微笑む顔が優しい。俺の手に唇を寄せ、それから近付いて唇をかする息が熱い。興奮しているのは俺だけじゃ無いのだろうか。
さらうように抱き込まれ、身体を移動させると同時に下着をずらされる。
「あ……」
気がそれたのを戻すために重なった唇付けが、そのまま深くなる。
呼吸を求めて離れると、片桐がパジャマを脱いだ。俺の上で惜しげも無く晒される上半身が、絞ったライトに陰影を持って浮かび上がり、鼓動が跳ねた。
変だ。
俺は裸の片桐に手を伸ばす。長い腕を辿って筋肉の形を確かめ、胸に触れるとそこからも自分と同じくらいに早い鼓動が触れた。
俺は変だ。
もう一度ベッドに押し倒されて、沈みながら片桐の背中腕を回す。
あんなに怖かったのに触りたくて仕方がない。抱き締められると密着した肌の熱も、触れ合う肌触りも、気持ち良くて仕方がない。
どうしたらいいかなんて戸惑っていたくせに、身体が勝手に片桐に合わせて動く。
「ここ」
骨盤の上を指先でさすられ、ビクリと身体が跳ねた。
「それからここ」
片桐の手が股関節の上を撫でる。
「……んっ……」
「ここも」
今度は後ろに回った手が尾てい骨の上をくすぐる。そうされるともうだめだ。くすぐったさに身をよじりながらも、妙な気分になって来る。
「そのうち、ここを触られたら欲情するようになりますよ」
意地悪く含んで笑う声が耳元に落ちた。一番弱いのはそこで、もう気付いてる片桐が舌で舐めてくる。
「……ぅわっ」
わざと濡れた音を耳元で立てられ、悲鳴を上げそうになった。ゾクゾクする感覚に、上手く感じる事が出来ない俺の経験値は片桐にとっては物足りないのかも知れない。ずっと含んで笑ってる。
「やだ、くすぐったい」
「でも気持ちいいでしょう」
気持ちいい。片桐の肌が気持ちいい。抱き締められると満足感がわいて来て、もっとこうしていたいと思う。片桐とぴったり張り付いていたい。
けれど幾らゆっくりとお願いしてもずっとこのままじゃいけないらしく、俺の反応を見ながら手が足の間に伸びて来た。はっとして片桐の目を見つめる、その間にもゆっくり足を開かされて太ももの内側を撫でらる。下から上へ、上から下へと下がった手が、膝の後ろにかかって足を持ち上げられた。
「やっ……」
いきなり両足を開かされた格好にたまらず俺は身をよじって逃げを打つ、けれど離しては貰えなくて、そのまま両手で顔を覆って隠した。
「片桐、やだ」
この格好は丸見えで、幾らなんでも恥ずかしい。自分のそこがどうなってるか知ってる。そんな物を人前に晒すのは涙が滲むほど情けない。
「片桐っ」
やっと足を下ろしてくれた後で、横に並んで寝そべって来る。
「見たかったんで」
「変態」
「朝霞の恥ずかしがる顔が」
初めて呼び捨てられた。
それからすぐに前に触られてギクリとした。
さっき一番感じると自覚もあった耳に舌先がねじ込まれて、ゾクゾクと背筋を何かが這い上がる。
「……あ……」
「見られる事にすぐ慣れる。だからこんなんで泣きそうになってる顔が見たかった」
いやらしい奴。
たまらなくなってシーツに手を彷徨わせ、捕まる場所を探したら、その手の上に片桐の手が重なって指を絡めてくる。
耳たぶをねぶられ、濡れた水音がたまらない。触られている前がたまらない。先端の方を爪でひっかくようにされると、震えが来るほどたまらない。
「あぁ……もっと……」
「もっと、なに?」
「もっと、強く」
イかせて欲しい。イケるだけの刺激が欲しい。なのに全体を擦ってくれる手は無くて、すぐそこに有る絶頂に届かない。
「まだ待って」
耳元で片桐が囁いて笑う。
「早く」
「待って」
クスクスと片桐が笑う。最初は待ってとお願いしていたのは俺の方なのに、いつの間にか逆になってる。
と、粘着質な濡れた感触が足の間に広げられてはっとした。
「まだ夢見てていいよ」
片桐はそう言って微笑むけれど、何の準備かくらいは分かる。未知なのはここからだ。
「何されるか不安?見てる?」
いつの間にか敬語を無くした喋り方が別の人みたいで、だけど確かに片桐で、返事も出来ないまま俺は自分の足の間で動く細い指を見る。
「やらしい眺め。でも逆に新鮮」
笑いながら片桐は髪に口付け、ひたいに頬を寄せる。俺は縋るような気持ちで片桐の胸に顔を押し当てた。
その瞬間に一本指が入って来る。ローションの助けを借りて思ったよりすんなりで、俺はホッと息をついた。
「そう、上手。そのまま力を抜いていて」
声を潜めて囁く片桐の指が中で動くのが分かる。奥には行かずに前の方に前の方にと慎重に体内を探られて、俺はますます片桐の胸に顔を強く押し当てた。
変だ。ゾクゾクして来る。もう前には触られていないのに、たまらなくなって来る。
「……んっ……」
自分の漏らした吐息にかすれた声が混じり、片桐が含んで笑う。
「じゃ、もう一回」
スルリともう一本入って来た指が、今度は広げるように動く。
受け入れる準備をされているのだと分かった。分かったけど、そんな所に指を突っ込まれて、どんな顔をしたらいい。恥ずかしい。とんでもなく恥ずかしい。こんな恥ずかしい事をみんなやってるなんて。しかも誰彼構わずの人はそれこそ誰でもいいとか、信じられない。
「も、死にそう……」
「生きてるから大丈夫」
クスクスクスクス、片桐は面白そうだ。
「も、ダメ。早くやって。恥ずかしくて死ねる」
「うーん。もうちょっと」
三本目が入ってくる。そこはクチャクチャと卑猥な音を立てて、いたたまれない。中で片桐の指が動くのがいたたまれない。
顔を隠したまま動かない俺に、片桐は笑うばかりで先に進める気がないのか。指が中のどこかしら自分では分からない場所をかすめるだびに、俺は漏れそうになる声を噛み殺していた。これ以上の恥はかきたく無い。
「強情」
呟いた片桐がやっと指が引き抜き、俺はベッドに仰向けにされた。
やっとなのだろうか。片桐が歯でゴムのビニールを噛み切るのを見た。
ヤバイ。
絞った灯りにシルエットの濃いその姿に見とれて、改めて腹が据わった気がした。
片桐が足の間に入って来る。足を開いたこの格好も気にならなくなって、そこに指とは違う感触を感じる。
「息、吐いて」
言われて息を吐くと、それに合わせてぐっと押し込まれ、反射で力を込めてしまう。やっぱりそこは挿れる所じゃなかった。
「待って、痛かった」
「まだ痛く無いよ」
なんでそんなの片桐に分かるんだ。
「ほら、もう一回。吐いて」
もう一回と言われて吐いてはみたけど、もう身体が警戒してる。強張って来ている。
けれど恐れを抱いて待っているのに、来ない。あれ?っと思って気を抜いた瞬間、一気に押し込まれた。
「いっ……た……」
「上手」
それは油断して力の抜けた所を無理矢理押し込まれたからだ。スボッと来た気がした。そして有る。まるで大根なんじゃ無いかと疑う質量の物に塞がれている。
しばらくそのまま動かない片桐の伸ばした手に髪を撫でられ、頬を撫でられ、あやされているうちに呼吸が楽になって来た。
「……大丈夫、かも」
「少し動いていい?」
「ん」
返事はしたものの、動き出したら侵食されるようだった。切り開かれて、奥まで貫かれて、自分の身体が無くなる恐怖を感じる。そんな中で手を伸ばせばしっかり掴んでくれる手があって、自分を貪る相手に救われる。
「あ……片桐……」
「大丈夫」
「あ、あ、ダメ……」
前をさすられると、受け入れている身体が辛いのに気持ち良くなる。引きずり出されるような痛みの中に快感が湧き上がる。
「片桐、あっ、あっ」
「もっと……」
「片桐、片桐」
訳も分からず何度も名前を呼んで、内側から来る波に飲まれて。
「……ウォアイニ……」
耳元で囁かれた声に意味も分からずいかされた。
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