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第33話

 敷いたばかりの布団に押し倒されて、手足をバタつかせて俺は暴れた。 「待って、待って」 「嫌だとか言うんですか。ここで拒否されると昨日のは何だったのかと本当に勘違いのような気がして来ますね」 「そうじゃないけどっ」  まだ身体が本調子じゃないし、微熱が引かない。けれど重なった体の熱さに片桐はすぐ気付いたようで、俺の額に掌を当てた。 「あぁ、今日休めば良かったのに」  そのまま横にずれて腕枕で抱え込んで来る。どうやら分かってくれたようで、俺はホッと身体の力を抜いた。  片桐は優しい。優しいけど、何か誤魔化されてる気がする。大事な事を誤魔化された気がする。 「うーん……」  まだ納得できずに居る俺に、隣に寝転んでいる片桐は諦めたように瞬きで頷いた。 「ウォーアイニィー。何度か言った言葉の意味がわかりますか」  その言葉は聞いた事有る気がするけど、耳に馴染まなくてよく聞き取れなかった。 「我爱你。中国語です」 「そうなんだ」  なんでまた。 「日本語にすると愛してる」  初めて言われた言葉に目を見開いて見つめる俺の真横で、片桐が息だけで笑う。照れを誤魔化すみたいなその息使いがぐさっと胸に刺さった。  ……萌える。  普段堅物で底意地の悪そうな片桐が、そんな顔をちょっと見せると萌える。 「……あの、なんでそんな大事な事を。日本語で言えよ、日本語で」 「自分的に大事な事は中国語かなと。外国語はよそよそしいので」 「どっちが外国語だよ。まるで伝わんねーよ、俺なんか日本語も怪しいに決まってるじゃないか、なんで」 「私の母国語は中国語なので」  あぁ、そうですか。どこの方言だと愛してるがウォ何チャラになるんだと突っ込みたいけど、中国ですか。  なんかもうこっちが照れ臭くて、どうやってやり過ごそう。 「なんだろう。日本語で愛してると言うのは簡単なんですけど、中国語だとなかなか言えなくて」  そう言ってテレてはにかむ笑顔が無茶苦茶可愛い。憤死する。 「俺が死んじゃう。これならプランツェルがどうとか、意味の分からない事言われてた方が良かった」 「あー、やっぱりダメですか。日常会話はなんとかなっても、口説き文句講座は無いので読んだ本が失敗だったかな」  やっぱりクサイセリフのオンパレードは大量の本からかよ。クサイよ。何を読んで来たんだよ。  はにかんだ笑顔に悶えている俺の髪に、片桐が長く細い指を差し込んで撫でて来る。 「そばに居るといつも触りたくて仕方ない。誤解させたなんて言わないで」  真摯な声音にぞくっと来る。  色気を含んだ切れ長の目に見つめられて、瞳から伝わってくる。 「日本語で愛してるって言ってくれたら」 「私にとってそれは感情こもらないですけどね……我爱你」  耳元で囁かれて、あぁ、この言葉を何度も聞いたなと思った。聞き取れなくて素通りしていた言葉には、それで全部許せるような魔法の言葉だった。 「ね、片桐。ゆっくりしよ」  耳元にこそっと囁くと、すぐに意味を察した片桐が少し驚いたようにこちらを向いた。 「や、無理させたくないので」 「ゆっくりなら大丈夫。片桐大好き」  口付けながら髪を乱されて、俺はうっとり片桐の腕に落ちる。これが欲しかった。  狭いシングルの布団の上で熱くなった身体を持て余す俺は、シーツの上に冷えた部分を探して腕を伸ばす。その手に指の長い綺麗な手が重なって、俺の身体をひっくり返す。 「こっちの方が、楽だから」  腰を持たれて四つん這いの姿勢を取らせられ、背中を向ける不安に俺は後ろの片桐を振り返る。 「やだ、後ろは嫌かも」 「大丈夫、怖く無いから」  そうは言われても、その姿勢その物が嫌だ。 「いいから、お尻こっち。もっと上げて」  腰が上がるように背中を押されて上半身を布団に押し付けられる。後ろから見ている片桐に全部晒される格好に、俺は唇を噛んだ。 「もうヒクついてる。慣れるの早いね」  そこはさっきまで片桐に十分解されていた。 「見るなよ、布団掛けてお願い」 「そのお願いは聞けない」  ふっと片桐が息で笑う。あてがわれた熱に息を詰めれば、背筋をすっと指先で辿られて尾てい骨の上をくすぐられる。 「あっ……」  ゾクゾクとした寒気にも似た感覚が這い上がり、俺は身をすくめた。 「だめだよ、固くなっちゃ」  片桐が背中に被さってきて、笑ながら耳元を舐めた。  そんな事をされれば尚更たまらない。同時に入って来た物の衝撃が凄くて、強張りそうなのに力が抜ける。 「あ、片桐……」 「なに?」  腰を持たれて打ち付けるように進んで来る。中が押し開かれて行くのが分かる。全部挿りきったのか、片桐は低く笑って俺を潰すみたいに身体を倒して、首筋を舐める。  その濡れた舌がたまらない。  馴染むのを待つ間に悪戯のように後ろから唇が動く。耳からうなじ、うなじから肩甲骨。 「羽根が生えてるみたいだ」  カツっと痛みを感じて、肩甲骨を噛まれたのが分かった。 「何して……」 「飛べないようにちぎってるの」  見えない羽根を。どこにも飛んで行けないように。 「行かないよ」  後ろに向けて手を伸ばしたら、肘を掴んで倒していた上半身を起こされる。中の片桐の形を感じて俺はひくく呻いた。  それをきっかけに動き出した片桐に突かれて身体が前に逃げれば、引っ張られて引き戻される。 「あっ……もっと、ゆっくり……」 「ほら、腹の中」  奥にぐりぐりと先端を押し当てられて、甘い痺れが走る。 「ここ?」 「わかんな……」 「じゃあ、もっと」  同じ場所ばかり突かれて、その度にジワジワ何かが広がって身体の力が抜ける。ジワジワジワジワ、たまらない。  俺は首を振ってそれを逃そうとしたけど、逃がせずに布団の上にうつ伏せに倒れた。追って来た片桐が、一度抜けた物を再度突き入れてまた同じ場所を探る。 「も、やだ……そこ、変になる」 「変になれよ」  嫌だ。入らない力を振り絞って頭を横に振るのに、もう立てない膝を無理矢理立たせて後ろから支えながら動く片桐が酷い。  もうだめだと再度潰れそうになったら、ぱんっとお尻を叩かれた。 「やっ……」  驚いて瞬間的に絞まった中で、ぐりぐりと片桐が動く。 「やっ、ああっ……」  ほとばしった高い声が誰の物か一瞬分からなかった。 「好きなんだ。凄いよ、中」 「やだ、片桐叩かないで」 「気持ちよかった?」  意地悪く含み笑いをする声が背中に落ちて、支配された気がした。  動物のような格好で後ろから犯され、叩かれる。でもそれがゾクゾクするほど込み上げる。  片桐の手が前に回って、もうベトベトになっている雫を先端に塗り付けられた。触られるとたまらない。 「いかせて、やって。片桐、やって」 「何を?」  本当に意地が悪い。あの一瞬の快感が欲しい。 「叩いて……」  支配される。片桐は俺をおかしくする。 「やらしい人」  片桐が含んで笑う。  それなのに待った衝撃は来なくて、不思議に後ろを振り返ると片桐が俺を見ていて、目が合うと自分の唇を赤い舌先で舐めた。  欲しい。キスが欲しい。自ら身をよじって片桐に向けて腕を伸ばして誘う。 「だめ。キスしたら持たないから」 「やだ。来て。して」 「欲張り」  倒れて来た片桐の首に腕を回して自分から吸い付く。舌を伸ばしてねだって、唾液を絡める。 「こんなのどこで……やばっ……」  片桐らしからぬ言葉が漏れた時、律動が激しくなって無理な体勢で捻っている身体の中を激しく突かれる。 「あ、待って、あ、あ……」  引いて行く度にゾワゾワする快感が生まれて、突かれる度にそれが身体に広がる。同時に前を擦られて、気持ちいい。  たまらなく気持ちいい。  と、不意を突かれてまた尻を叩かれた時、俺は叫声をほとばしりながら果てた。  一呼吸置いて片桐が形のいい眉をしかめるのを見た。  ヤバイ。その表情で死ねそう。初めて見た片桐のイキ顔は殺人的破壊力で俺を惹きつける。  ヤバイ。誰にも見せたくない、渡したく無い。このまま離れずに世界が終わればいいのに。

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