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Come, say yes:ネットでの再会4

 俺に何も言ってこない兄ちゃんに焦れたので、思いきって訊ねてしまった。今日でもう5日目、メールを送っても、ロウから返信がないままで、いろいろ不安になったからだ。 「兄ちゃんあのさ、ロウに何か頼まれた事ないかな?」  自分の部屋から出てきたトコを、素早く捕まえる。扉の前でギョッとした顔して、俺の事をまじまじと見つめる兄ちゃん。 「ああ……うん。実は透馬を説得してくれって、頼まれたんだけどさ」 「俺の事が欲しいとか、ワケの分からない事言ってただろ。ロウのヤツ……」  うんざり顔をした俺を見て、苦笑しながら頷く。 「アンドリューに逢わせるやるから、何とかしろって言われたんだけど、行きたくない理由があるから、断ってるんだろうなぁって。だからあえてこの件、スルーしてたんだ」 「アンドリュー王子に逢えたの?」 「ああ。報酬前払いって事で、逢わせてもらえたんだけどさ。久しぶりに顔を突き合わせたら、喧嘩しちゃったよ。現在メールも電話も出てない」  喧嘩してると言いつつ、なぜか楽しそうに肩をすくめる。 「俺は喧嘩してないのに、ロウから連絡が一切なくて……。兄ちゃん達と逆だよな」 「透馬?」 「ずっと断ってたから、他のヤツに頼んでるのかもしれない。そっちにかかりきりになってるから俺に連絡、寄こさないのかも」 「なんて顔してるんだ。大丈夫だって」  乱暴に俺の頭を、グチャグチャと撫でまくる。 「仕事が忙しいとか、もしかしたら風邪ひいて寝込んでるって可能性もあるよな。他所の国に行って、連絡出来ないとかさ」 「兄ちゃん、ありがと」  俺が作り笑いすると和むようなな笑顔を作り、ポケットからスマホを取り出した。 「そろそろ許してやっても、いいかなって思ってたとこだから、連絡してローランドの事を聞いてやる。ちょっと待ってろ」  手際良くコールし、なぜか耳にスマホ本体を当てない兄ちゃん。俺がその様子を不思議そうに眺めていると、すぐに通話が繋がったらしく、更にスマホを耳から遠ざけた。 『かーずーまー! やっと許してくれたのだな! 俺はちゃんとデリートしたぞ、信じてくれって』  発狂しているアンドリュー王子の声が、スマホから聞こえてきた。スピーカー状態にしていないのに、特大ボリュームで聞こえるのは、それだけ待ちかねたってことなんだろうけど。このボリュームは、正直尋常じゃない。  兄ちゃんは呆れた顔して、スマホに向かって話しかけた。 「デリートしたかどうか、チェックできないからな。信用ならん」 『本当にパソコンから全部消したって。神に誓うぞ』 「どうだか……」 『俺の網膜に焼きつけて、脳内にインプットしたし。そこのところは大丈夫なのだ!』  その言葉に、兄ちゃんの顔が激しく引きつらせた。アンドリュー王子はそういう事を言って、ワザと兄ちゃんを困らせてるんだろうか? 「今すぐ、お前の脳内にあるモノ、全部デリートしろっ! バカになっても構わないから」 『え~っ、そんなの無理だぞ。勿体ない』 「逢った時に、頭かち割ってやるからな。まったく――」  羨ましいくらい、本当に仲が良い。  俺が吹き出しながら兄ちゃんを見ていると、慌てて咳払いをし話題を変えた。 「あのさローランドって、元気にしてるのか? 透馬が連絡しても繋がらないらしくて、心配してるんだ」 『俺がうんざりするくらい、仕事しまくってるぞ。俺たちみたいに、ケンカでもしたのか?』  アンドリュー王子が向こう側から、気遣うように聞いてくる。  仕事しまくってるから、連絡出来ないというのだろうか。  俺が俯くと、肩をポンポン叩いて頷く兄ちゃん。 「元気そうならいいんだ、病気で臥せってるかもって思ったから。一応お前からも、透馬が連絡欲しがってる事、伝えてくれないか?」 『分かった、伝えておく。あのさ和馬』 「要件はそれだけだから、じゃあな」 『待て待て! 俺はまだ話足りないぞ!』  喚くアンドリュー王子の声を無視して、サクッと通話を切った。しかも電源まで落としてる……ある意味、徹底しているというか、何というか。 「まだ話足りないって言ってるのに、切って良かったの?」 「アイツに付き合うと、最低1時間は話しこむから。こっちの用事なんてお構い無しだし、自分のやってる事投げ出して、電話してるワケなんだから、切ってやらないと周りの人が大変だから」 「離れてても、仲が良いんだね」 「仲が良いのかな。信用されてないから見張られたり、いろいろチェック入りまくりで、大変なんだ……」 「見張られたり?」  その言葉に反応すると、ハッとして意味なく俺の肩を叩きまくる。 「アンドリューのクセみたいなものなんだ、気にすんな。それよりも」 「なに?」  まじまじと俺の顔を見る兄ちゃん。俺の周りにいる人は、よく気にするなという言葉を使う。秘密が多いって証拠だろう。 「透馬お前、また身長伸びたな。何気に、目線が同じになってて驚いたよ」 なぜだか自分の事のように喜んでいる。このままだと、追い越す勢いなんだけどな。 「朝起きたら、昨日よりも全ての物の位置関係が違ってて、気持ち悪いんだ。階段なんて違和感だらけだし」 「あ~、そうそう。フラフラするよな。今のローランドと、どっちが高いかな?」  不意に出された名前に、ドキッとしてしまう。 「病院で逢った時は、同じくらいだったから。今はどうなんだろ……」 「アンドリューが間違いなく、しつこくローランドに伝えてくれるハズだから、きっと電話かメールくるって。安心して待ってればいいさ」  そう言って俺の頭をクシャと一撫でして、階段を降りて行く。 「透馬の頭を撫でるのも、これが最後だな。デカいヤツの頭を撫でるのは、失礼だろ?」 「そんな事ないよ。少しだけ嬉しいし……」 「偶然見かける度、いつも違う女のコ連れて歩いてる弟は、もう立派な男だよ。もう撫でない」  ふてくされたように言い放ち、逃げるように階段を降りて行った。  偶然見かける度、か。いつの間に、見られてたんだろう。 「ぼんやりしてるだけじゃないんだ。参ったな」  自嘲的に笑い部屋に戻って、机の上に置いてあるスマホに、そっと手を伸ばした。着信ランプは点灯せず…… 「さっき頼んだばかりなのに、気になって仕方ないなんて俺、どうかしてる」  ままならない恋愛をするのは嫌いじゃない。落とした時の達成感があるから……そう、思ってたのに。絶対に手に入らないという自信がある。だからこそ、欲しくてたまらないのかもしれない。 「こんなに誰かの連絡を心待ちにした事なんて、今までなかったから、マジで落ち着かない」  俺の願いとは裏腹に、スマホはずっと無反応だった。  やっぱり、嫌われたんだろうか。  ロウに対する今までの態度を考えてる間に、それは起こった。サプライズ好きな王子様が突如、目の前に現れたのである。

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