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Come, say yes:抑えられない衝動3

「ん……」  目を開けると、見知らぬ部屋の景色が目に映った。  ここはどこだろうと思った瞬間に、背中に生温かいモノを感じて、一気にカチンコチンになる俺。  すぅすぅという、規則正しい寝息が、耳に聞こえる。  恐る恐る首を動かして、後方を確認すると予想通り、俺に寄り添うようにローランドが寝ていた。多分時差の関係で寝てしまったにしても、どうしてこんなにぴったりとくっ付いて、寝ているのやら。 「落ちつけ俺、深い意味なんてないんだから。何となくただ一緒に、眠っちゃっただけなんだと思われる……」  ドキドキする胸を一生懸命に抑えようと、ワケの分からない理由を口にしてみた。  スプリングの利いたベッドの中、ゆっくりと寝返りをして、さりげなくロウと対面する形を作る。  久しぶりに見るロウの顔――しかも至近距離である。しかもベッドの中とか、信じられない展開!  栗色の髪が布団の中で、乱れるように散らばっていて、その乱れ具合が色っぽくて、ドキドキに拍車をかけた。長い睫毛が影を落として、サクランボ色した唇が、僅かに微笑んでいるように見える。 「何か楽しい夢でも、見てるんだろうか」  ポツリと呟いて、そっと右手親指で、ロウのキレイな唇に触れてみた。  しっとりとした柔らかい唇、眠っている今の状況なら、キスしても分からないかも。  もう一度唇を指でなぞり、起きないのをしっかり確認してから顔を近づけた時、タイミング悪く、ぱっちりと目を開けたロウ。  鼻と鼻がぶつかりそうな、超至近距離である。やましい事をしようとした俺も驚いたけど、それ以上にロウは、もっと驚いたに違いない。 「すすす済まぬ。これには、深い意味なんてないのだっ! 眠たくなってしまって、ついウトウトしてしまって、気がついたら透馬の傍で、寝てしまっただけなのだ!」  顔を真っ赤にし、慌てて俺との距離をとる。  そんな顔して、弁解しなくたって分かってるって。 「いきなり拉致られて、気がついたら一緒に寝てる状態は、正直すっごく驚いたぞ。連絡してもずっと無視だったしさ、何なんだよ一体」  距離をとったロウの腕を強引に掴み、グイッと引き寄せた。真っ赤な顔をしたロウが、ビクビクしながら、不機嫌な顔の俺を見る。  不機嫌にしてるのは、さっきやましい事をしようとした、自分を隠すためだったりした。 「だって透馬が俺の誘い、ずっと断ってばかりで、その……辛くなってしまったというか」 「ふーん」 「和馬に頼んでも、思った通り音沙汰なしだったし、いっその事、諦めようかと思ったのだが、どうしても諦められなくて、日本に強行突破するために、必死で仕事して来たのだ」 「それで疲れ切って、一緒に寝てしまったという事なのか」  言いながらロウの頭を撫でてやると、くすぐったそうに肩を竦める。サラサラな栗色の髪が、俺の手にまとわりつき、抱きしめたい衝動に駆られた。 「透馬どうして、俺の頼みを聞いてくれないのだ? 理由を教えてくれ、頼む」  そんな俺に、必死な顔して食いつくロウ。真実を知ってしまったら、お前は俺の事を諦めるだろう。 「ロウは、Hしたことある?」  唐突に切り出した俺の言葉に、目を見開いて不思議そうな顔をした。 「ない、が、それが何だというのだ?」 「俺はね、初めてしたのは中2の時。相手は若い、担任の先生だったんだ」 「先生とそう言う事をしたのか!? 信じられん」 「だよな、俺もビックリだったよ。偶然転んだ先生を助けようとしたら、胸を触っちゃってさ、そのまま抱きしめられてキスして」  言葉を繋げようとロウの顔を見たら、さっきよりも真っ赤になって、俺の顔から目を逸らしていた。 (すっごく可愛い……このままお前に、手を出す事が出来るのなら――) 「すごいな、やっぱり透馬は。時々見せる表情が大人っぽいトコがあったから、そういう経験が、そうさせていたのだな」  目を逸らしながら、ワザと明るく喋るロウに心が痛んだ。 「お前が思ってるような、出来たヤツじゃない、俺ってだらしない人間なんだ。だから」 「それくらいじゃ俺は諦めんぞ。男なんだから性欲があるのは、当たり前じゃないか」 「違っ! そうじゃないんだ。俺は……俺は」 「なんだ、まだ何かあるのか。驚かないから言ってみろ」  強張らせた俺の手を、優しく握りしめてくる。  ――告げたら、これで終いだろう。この手も、振り解いてしまう事だろうな。 「俺は……好きになってはいけない人を、好きになってしまったんだ」 「好きになってはいけない人? うーん。例えば、彼氏がいる女や人妻だったりして?」  まっとうな答えを出すロウの顔を、切ない気持ちで見つめながら、握りしめられた手を、更にぎゅっと握り返した。 「ローランド、お前だよ。初めて逢った時から好きだった」 「や、何の冗談なのだ。今まで無視した事に対する、報復のつもりか透馬」  顔を引きつらせながら、握っていた手を離そうとしたロウの手を、逃げないように素早く捕まえた。 「冗談で言う台詞じゃないの、分かってるだろ。逃げるなよ」  俺はそのまま押さえ込むように、ロウの体に圧し掛かった。

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