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Come, say yes:抑えられない衝動4
「苦しい、やめろ透馬っ!」
「分かっただろ、俺を傍に置いておくと言う事は、こういう風になるんだって。好きなヤツに、手を出さない男なんていないんだから」
「好きなヤツって、俺は男なのだ。そういう対象じゃないだろう?」
「分かってるさ、そんなの。だけど好きになっちゃったんだから、しょうがないだろっ!」
力を込めてロウの体を、ぎゅっと抱きしめた。抵抗されると思っていたのに、やけに素直に、されるがままになっている。
訝しく思いながら、そっとロウの顔を見てみると、きつく眉根を寄せ、困った顔をしていた。
「……ロウ?」
俺は恐る恐る問いかけると、ふぅと息を吐き、俺の顔を見上げた。
「俺のどこが良いのだ? 好きになられる程、いいところがあるとは思えんのだが」
「他人に対してシビアなものの見方をするのに、身内……アンドリュー王子には、とことん甘いところや、国民の事を思って一生懸命に仕事する姿勢とか。些細な事でも頑張って、解決しようとしてるところなんかも、好きなんだよ」
肩のラインに切り揃えられた、サラサラした栗色の髪の毛に、影を落としたブルーグレーの瞳……すべてが好きなんだ。
そんな俺の答えに、ますます困った顔をした。友人だと思ってた相手から、突然自分を好きだと言われて、困惑しないヤツはいないと思う。
組み敷いてる俺の体の下で、顔を横に向け視線を外した。
「俺は透馬を、そういう恋愛感情で見た事がないから、分からない……。でもお前がいなきゃ、ダメなのだ」
「どうして?」
「お前と連絡を絶っていたここ数日間、気持ちが安定しなくてな。落ち着かなかったと言うべきか。透馬にどれだけ支えられていたのか、十二分に分かったのだ」
「俺は大した事を、してないと思ってるんだけど」
「そんな事はないっ! お前はよく、俺を支えてくれたのだ。だから仕事にも、精を出す事が出来たのだから」
横を向いてた顔をゆっくり移動して、俺の顔を優しい眼差しで見上げる。
「ロウにはいつも、笑顔でいて欲しかった。俺の大好きな、ロウの笑顔が見たかったから。それだけなんだ」
「透馬が傍にいてくれるなら、俺は構わない。好きなだけ抱いていいぞ」
「なに、言ってんだよ……」
俺の事を、何とも想ってないクセに。どうしてそんな、いい加減な言葉が言えるんだバカ!
「抱かれたら透馬を、好きになるかもしれないだろ?」
どうしてこうも、極端から極端に走れるんだよ、まったく。
「自分たちの兄貴同士がデキてるから、拒絶されると思ってた」
「知っていたのか? ふたりがそういう関係だって」
「うちに泊まりに来た晩、隣の部屋でそういう事している声が、ばっちり聞こえたから」
「アンドリューが和馬と……」
「俺もローランドと、そういう関係になりたいって、思ってるんだけど?」
そっとロウの首筋を触ってみる。
「ひっ!?」
顔を強張らせて、俺を見上げる視線は、恐怖に満ちていた。
「キスしても、いい?」
俺が耳元で告げると、諦めたようにこくんと頷く。
「きき、キスなんて、挨拶代わりだからな。お安い御用だぞ」
「じゃ遠慮なく、思いっきりするからな」
ロウの顎に手を当てると、唇を開かせるようにして顔を近づけ、柔らかい唇にそっとキスをした。そして開いてる唇に舌を侵入させ、ロウの舌に絡ませる。
「う……んっ……」
ロウのあげる色っぽい声に、ますます俺の欲情に火がつく。堪らなくなって、もっともっとロウが欲しくなった。
唇を離す瞬間、ロウの下唇をきゅっと噛み、吸いついてみる。真っ赤な顔して甘い声を上げながら、はあはあと荒い呼吸をする。
「感じた?」
俺がロウの顔を覗きこむようにじっと見つめると、潤んだ瞳で俺を一瞬見上げ、慌てて視線を逸らす。
「大したことないぞ。全然、平気なのだ」
全然平気じゃない顔をして言ってのけるロウに、ほくそ笑みを浮かべた。
――どこまで、その強がりが通用するのか見てみたい。
「そうか、感じなかったんだ。じゃあどこが感じるか、試してみてもいい?」
「試すって、何をするのだ?」
「ロウを可愛がってあげる」
そう言って、ロウが着ている白いシャツのボタンを、ひとつひとつ外していった。その間、ロウは固まったまま身動ぎせず、されるがままになっていた。
シャツから覗いた白い肌に、右手人差し指でそっと触れてみる。脇の下から横腹のラインを、なぞるようにゆっくり触れると、くすぐったかったのだろう、体をよじらせた。
「可愛がるなんて言って、何やってるのだ透馬。くすぐったいだけだぞ」
「ふーん。じゃあ、これはどうだ?」
俺はロウの耳の下に顔を埋め、ちゅっとキスをしてから、唇を滑らせるように、首筋に沿って舐めてみる。
「やっ……」
声を上げ抵抗する両腕を押さえて、そのまま鎖骨のラインもなぞるように、舌を這わせると、腰を浮かして身悶える。その姿にたまらなくなり、胸元に強く吸い付いた。
白い肌に赤い花が咲く。
「ロウ、すっごく可愛い。感じてるだろ、ん?」
「感じてなんていないのだ……。ただ、くすぐったいだけで、何ともな――」
「嘘つき。しっかりロウの、大きくなってるじゃないか。感じていなきゃ、こんな風にならないって」
「ちょ、触るな、バカっ!」
強引にズボンの上からロウ自身を掴むと、真っ赤になって、俺の腕を外そうとした。
「感じてるクセに、ホント素直じゃないよな」
「透馬離せっ、それ以上弄られたら困るのだ!」
栗色の髪を乱して、首を横に振りまくる。かなり我慢しているんだろう、眉根をきつく寄せ、顔を赤らめながら、荒い呼吸を繰り返していた。
俺この姿を見てるだけで、イケる気がする――
「どう困るか、詳しく説明しろよ。じゃなきゃ止めないから」
「俺を困らせて、楽しんでいるんだろ。酷いぞ透馬」
「困らせるつもりなんかない。ただ、感じて欲しいから、してるだけだって」
「それが困らせるって事なのだ、分からないのか」
真っ赤な顔で弁解されても、説得力に欠けるんだけど。
俺はロウ自身から手を離すと、華奢な体をぎゅっと抱きしめた。
「俺に、傍にいて欲しいんだよな?」
耳元で問いかける俺に、こくんと静かに頷いた。
「出来るなら俺も、お前の傍にいてやりたいって思ってる。ホントちっぽけな俺だけど、ロウの役に立つ事が出来るなら、使って欲しいって」
「透馬はちっぽけではないぞ、自分が思ってる以上に、能力は高いのだからな」
「エロい能力だけは高いと、自負してるんだけど、どう思う?」
「それは……その、今までいろいろ経験しているのだから、それは当然の事じゃないのか」
「いろいろ経験してるけど、男とHした事はない。初めてなんだ」
そう言って、ロウの耳たぶを口に含み、ちゅっと吸ってみる。
「なっ! やめろって、ゾクゾクするぞ」
「まったく――それを感じてるっていうの。だから心を開いてくれない相手の補佐なんか、正直出来ないって考えてるんだよ」
「透馬?」
「支えたくても、突っぱねられたら意味ないだろ。しかも傍にいると、今以上のエロい事を、絶対しちゃう自信があるんだからな」
更にぎゅっと、ロウの体を抱きしめた。痛いくらいの抱擁なのに、苦情一つ言わず、されるがままになっている。
「俺の前では素直になって欲しい、心の痛みも悲しみも、全部受け止めてやるから。ロウが好きなんだ、俺……」
「……素直になるのが怖いのだ、俺はいつも、毅然としていなければならない存在だから。素直になるという事は、自分をさらけ出す事になる。本当の俺を見たら透馬は、幻滅すると思うぞ」
「嫌うワケないじゃないか、さっき言ったろう、好きだって。お前の強いトコも弱いトコも、全部ひっくるめて、すっごい好きなんだ」
微笑みながら言うと、沈んだ顔をしたまま目を逸らして、俺の視線をワザと避けた。
そんな顔してほしくない、いっその事ハッキリと、嫌われた方がいいのだろうか。
ロウが発する言葉を、俺は待ってみた。その答えで俺たちの行く末が、分かる気がしたから。
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