27 / 38

Come, say yes:抑えられない衝動5

***     難しい……。何と言って自分の気持ちを、表現すればいいのだろう? Likeでは軽い、限りなくLoveに近いのだけれど、そこまで重くないと思う。  透馬にすっごい好きと言われ、胸の奥がうずうずする感覚があって。嬉しいだけじゃない、得も言われぬ想いが、自分の中に確かに存在する。気持ち悪いという言葉で否定できない、この気持ちは、恋愛感情にすべきなのだろうか?  視線を逸らして考えこんでいる俺を、黙って見つめる透馬の視線が、正直痛かった。  痛いついでにチラッと顔を見たら、優しい眼差しで俺を見つめる姿が、そこにあり――これのお蔭で、今まで考えてた事が一瞬で吹き飛び、俺の思考が停止する。  透馬からの視線のせいで、更に真っ赤になったであろう頬を見られたくなくて、慌てて顔を逸らした俺の頭を、そっと撫でる。ちょっとした加減で、指先が肌に触れる度、心臓が加速するように早くなった。 「何考えて、そういう事しているのだ? 無性にイライラするぞ」  ドキドキを隠そうと、つい強い口調で言ってしまった。こんな事を、本当は言いたくないのに。 「ごめん、イヤだったのか。俺は頭撫でられるのが結構好きだから、無意識でやっちゃて」 「そうではない。俺以外のヤツにも、こういう事してるのかと思ったら、無性に腹が立って……」 「えっ?」 「ちっ、違うのだっ! 透馬にイライラしたんじゃなく、自分自身に苛立ってしまっただけであって、深い意味などないのだからなっ」  慌てて、自分の気持ちを訂正した。  透馬に頭を撫でられ、心臓が飛び出しそうな程ドキドキした事や、透馬の過去の男女関係について妬いてしまった事を、知られたくなかったから。  嫌われたくないその一心で、言葉を発した俺。 「そうか、深い意味ないんだ」  それをあっさり肯定され、胸に突き刺さるような痛みが走る。  あまりの痛さに、ぎゅっと眉根を寄せると、細長い親指と人差し指が俺の眉間のシワを伸ばすように、グイグイ引っ張った。 「ロウ、そんな顔するな。折角のキレイな顔に、深いシワができるだろ。勿体ない」 「透馬……」 「追いつめることを言ってゴメン。でもこれが俺のお前に対する気持ちなんだ」  そう言って俺を抱き起こした。そして身なりを整え、俺のシャツのボタンを嵌めていく。 「好きだからって、無理矢理こんな事しちゃダメだよな。ロウにそんな顔させるなんて、俺って最低なヤツ……」  震える手でボタンを嵌める手に、俺は両手でそっと触れた。 「最低ではない、お前は俺の認めた男なんだぞ。自信を持て」 「さっきまでしょんぼりしてたクセに。何、俺の事、持ち上げてるんだよ」 「持ち上げてるつもりなど、さらさらない。お前は俺の……」  両手で包んだ透馬の手を、ぎゅっと握りしめた。 「大切で、掛けがえのない存在なのだから……」  大事な言葉だと言うのに、恥ずかしくてあさっての方を向き、小さな声で言ってしまった。 「は? 何て言ったか、全然分からないんだけど?」 「だから、その……大切で掛けがえのない存在なのだ、お前は」 「やっぱ聞こえない。何、口元でブツブツ言ってんだよ。英語で言ってるのか?」 「英語など喋っていない、きちんと日本語で話しているぞ」  透馬の耳の遠さにイライラしながら、声を少しだけ大きくしてみた。 「透馬は俺の大切な男なのだ。俺にとって掛けがえのない、大事な存在だからなっ!」 「すごくいい事、言ってそうな感じなんだけどさ、なのだとか語尾の部分しか聞こえないよ」 「な、なんだと!?」  自分の中では、ハッキリと言い伝えたハズなのに。 「こっち向いて、ちゃんと言えよ」 「言えぬ……。そっちを向いて言う事になれば、心臓が口から飛び出て、きっと死んでしまうぞ」  握りしめていた拳を片手だけ外して、俺の手を握りしめた透馬。 「大丈夫、ロウの口は俺が塞いでやるから」  クスクス笑いながら言う透馬が、本当に憎らしくなった。俺は真剣にドキドキして、頑張って言葉を伝えているというのに。 「塞いだら言えなくなるだろう、お前が好きなんだって事がっ!」 「ロウ……」 「お前だけが俺が言う事を、真面目に聞いてくれた。他のヤツらは、どんなに仲良くしようとしても、距離をとるし見えない壁作るしで、相談なんて出来る存在じゃなかったし。ジェームズ兄は何でも出来る兄だったし、アンドリュー兄は華やかで格好良いし……。俺は何の取り柄がない、つまらない男だから透馬に好かれてるなんて、全然考えてなかったし」 「そうか? ロウはちゃんとみんなのことを、大事に考えてるじゃないか」 「そうやって褒められると、天狗みたいに鼻が伸びるぞ」 「天狗みたいに、顔が真っ赤になってるけどな」 「へっ?」 「俺への気持ち、たくさん言ってくれてありがとな。てか言わせちゃったみたいな?」 「は?」  ワケが分からず透馬の顔を見ると、照れながら慈愛にみちた目で、じっと俺を見つめる。 「俺って大切で掛けがえのない存在で、しかも大好きなんだよな?」 「は、謀ったな透馬……」 「だってさ、こうでもしないと、何も言わないだろお前」 「バカな。俺はきちんと言うべき時に、言う男なのだ。しかも大好きとは言ってないぞ」 「……この状況、今、言うべき時だろ。ナウなんだよ、王子様」  そう言って強引に、俺を押し倒す。俺が顔を逸らせないよう、両手で頬を包んだ透馬。 「ローランド、お前が答えやすいように質問してやる。俺の事、恋人として好きか? YesかNoで答えろよ」  透馬の質問に答えるべく、俺はいろいろ考えた。先程考えたもののやり直し。  友達と一緒にいて、こんな風にドキドキはしない。透馬の女性関係を考えると、胸が痛くて辛くなる。透馬の傍にいたい、触れていたし触れられたい。  キスしてもイヤじゃない、むしろ俺は―― 「イ……うっ……」 「ちょ、どうして泣きだすんだ? 泣くほど言うのが、イヤなのか?」 「違うのだ、済まぬ。うっ……お前の事を考えると、胸が熱くなってしまって、ひっく……」  涙を流す俺に苦笑いしながら、頬に伝わる涙を拭ってくれた。優しくて温かい手が心地良い。  息を整えながら、伝えなければならない言葉を、はっきりと告げた。 「この状況、どう見たってYesだと分かるであろう。バカ者め」 「それでも本人の口から直接、確かめたかったんだよ、バカ王子」  初めて逢った時、互いの口から出た言葉に、じわりと懐かしさを覚えた。あの時はこんな風に、透馬の事を好きになるなんて、思いもしなかった。  生意気で野蛮な、ただの一般人という認識だったのに。透馬の俺を想う優しい気持ちが、その認識をひっくり返したのだ。 「シャツ着せちゃったけど、また脱がしていい?」  耳元で囁かれる言葉に、恥ずかしくて頷く事しか出来ない。 「ちなみに俺の鞄って、どこにある?」 「そこの窓際にある、椅子の上だが……なぜだ?」 「ちょっと道具を取りに行きたいなと思って、あはは」 「道具って、何に使うのだ?」  困った顔をした透馬に、真面目に質問した。 「いや、その。濡れにくいコに使ってたモノを、取りに行きたくって」 「濡れにくいコ……。透馬お前って、鞄にいつもその様な如何わしいモノを、忍ばせているのか?」 「そのぅ、チャンスは降って湧いて出てくるから、いつも持参してます。なんちゃって……」 「やっぱり中止にするぞ、腹が立ってきた」  怒りながら起き上ると、無理矢理押さえつける透馬。 「この状況、今ヤルべきだろ! 折角お互い気持ちが通じ合ったっていうのに、逃げるなよローランド!」 「ちょっ、待つのだっ!」 「待ったなし、一発勝負だ……」  意味不明な事を掠れた声で告げると、俺の口を強く塞いだ透馬。  そして俺のシャツのボタンを、素早く外していくのだった。

ともだちにシェアしよう!