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Come, say yes:抑えられない衝動5
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難しい……。何と言って自分の気持ちを、表現すればいいのだろう? Likeでは軽い、限りなくLoveに近いのだけれど、そこまで重くないと思う。
透馬にすっごい好きと言われ、胸の奥がうずうずする感覚があって。嬉しいだけじゃない、得も言われぬ想いが、自分の中に確かに存在する。気持ち悪いという言葉で否定できない、この気持ちは、恋愛感情にすべきなのだろうか?
視線を逸らして考えこんでいる俺を、黙って見つめる透馬の視線が、正直痛かった。
痛いついでにチラッと顔を見たら、優しい眼差しで俺を見つめる姿が、そこにあり――これのお蔭で、今まで考えてた事が一瞬で吹き飛び、俺の思考が停止する。
透馬からの視線のせいで、更に真っ赤になったであろう頬を見られたくなくて、慌てて顔を逸らした俺の頭を、そっと撫でる。ちょっとした加減で、指先が肌に触れる度、心臓が加速するように早くなった。
「何考えて、そういう事しているのだ? 無性にイライラするぞ」
ドキドキを隠そうと、つい強い口調で言ってしまった。こんな事を、本当は言いたくないのに。
「ごめん、イヤだったのか。俺は頭撫でられるのが結構好きだから、無意識でやっちゃて」
「そうではない。俺以外のヤツにも、こういう事してるのかと思ったら、無性に腹が立って……」
「えっ?」
「ちっ、違うのだっ! 透馬にイライラしたんじゃなく、自分自身に苛立ってしまっただけであって、深い意味などないのだからなっ」
慌てて、自分の気持ちを訂正した。
透馬に頭を撫でられ、心臓が飛び出しそうな程ドキドキした事や、透馬の過去の男女関係について妬いてしまった事を、知られたくなかったから。
嫌われたくないその一心で、言葉を発した俺。
「そうか、深い意味ないんだ」
それをあっさり肯定され、胸に突き刺さるような痛みが走る。
あまりの痛さに、ぎゅっと眉根を寄せると、細長い親指と人差し指が俺の眉間のシワを伸ばすように、グイグイ引っ張った。
「ロウ、そんな顔するな。折角のキレイな顔に、深いシワができるだろ。勿体ない」
「透馬……」
「追いつめることを言ってゴメン。でもこれが俺のお前に対する気持ちなんだ」
そう言って俺を抱き起こした。そして身なりを整え、俺のシャツのボタンを嵌めていく。
「好きだからって、無理矢理こんな事しちゃダメだよな。ロウにそんな顔させるなんて、俺って最低なヤツ……」
震える手でボタンを嵌める手に、俺は両手でそっと触れた。
「最低ではない、お前は俺の認めた男なんだぞ。自信を持て」
「さっきまでしょんぼりしてたクセに。何、俺の事、持ち上げてるんだよ」
「持ち上げてるつもりなど、さらさらない。お前は俺の……」
両手で包んだ透馬の手を、ぎゅっと握りしめた。
「大切で、掛けがえのない存在なのだから……」
大事な言葉だと言うのに、恥ずかしくてあさっての方を向き、小さな声で言ってしまった。
「は? 何て言ったか、全然分からないんだけど?」
「だから、その……大切で掛けがえのない存在なのだ、お前は」
「やっぱ聞こえない。何、口元でブツブツ言ってんだよ。英語で言ってるのか?」
「英語など喋っていない、きちんと日本語で話しているぞ」
透馬の耳の遠さにイライラしながら、声を少しだけ大きくしてみた。
「透馬は俺の大切な男なのだ。俺にとって掛けがえのない、大事な存在だからなっ!」
「すごくいい事、言ってそうな感じなんだけどさ、なのだとか語尾の部分しか聞こえないよ」
「な、なんだと!?」
自分の中では、ハッキリと言い伝えたハズなのに。
「こっち向いて、ちゃんと言えよ」
「言えぬ……。そっちを向いて言う事になれば、心臓が口から飛び出て、きっと死んでしまうぞ」
握りしめていた拳を片手だけ外して、俺の手を握りしめた透馬。
「大丈夫、ロウの口は俺が塞いでやるから」
クスクス笑いながら言う透馬が、本当に憎らしくなった。俺は真剣にドキドキして、頑張って言葉を伝えているというのに。
「塞いだら言えなくなるだろう、お前が好きなんだって事がっ!」
「ロウ……」
「お前だけが俺が言う事を、真面目に聞いてくれた。他のヤツらは、どんなに仲良くしようとしても、距離をとるし見えない壁作るしで、相談なんて出来る存在じゃなかったし。ジェームズ兄は何でも出来る兄だったし、アンドリュー兄は華やかで格好良いし……。俺は何の取り柄がない、つまらない男だから透馬に好かれてるなんて、全然考えてなかったし」
「そうか? ロウはちゃんとみんなのことを、大事に考えてるじゃないか」
「そうやって褒められると、天狗みたいに鼻が伸びるぞ」
「天狗みたいに、顔が真っ赤になってるけどな」
「へっ?」
「俺への気持ち、たくさん言ってくれてありがとな。てか言わせちゃったみたいな?」
「は?」
ワケが分からず透馬の顔を見ると、照れながら慈愛にみちた目で、じっと俺を見つめる。
「俺って大切で掛けがえのない存在で、しかも大好きなんだよな?」
「は、謀ったな透馬……」
「だってさ、こうでもしないと、何も言わないだろお前」
「バカな。俺はきちんと言うべき時に、言う男なのだ。しかも大好きとは言ってないぞ」
「……この状況、今、言うべき時だろ。ナウなんだよ、王子様」
そう言って強引に、俺を押し倒す。俺が顔を逸らせないよう、両手で頬を包んだ透馬。
「ローランド、お前が答えやすいように質問してやる。俺の事、恋人として好きか? YesかNoで答えろよ」
透馬の質問に答えるべく、俺はいろいろ考えた。先程考えたもののやり直し。
友達と一緒にいて、こんな風にドキドキはしない。透馬の女性関係を考えると、胸が痛くて辛くなる。透馬の傍にいたい、触れていたし触れられたい。
キスしてもイヤじゃない、むしろ俺は――
「イ……うっ……」
「ちょ、どうして泣きだすんだ? 泣くほど言うのが、イヤなのか?」
「違うのだ、済まぬ。うっ……お前の事を考えると、胸が熱くなってしまって、ひっく……」
涙を流す俺に苦笑いしながら、頬に伝わる涙を拭ってくれた。優しくて温かい手が心地良い。
息を整えながら、伝えなければならない言葉を、はっきりと告げた。
「この状況、どう見たってYesだと分かるであろう。バカ者め」
「それでも本人の口から直接、確かめたかったんだよ、バカ王子」
初めて逢った時、互いの口から出た言葉に、じわりと懐かしさを覚えた。あの時はこんな風に、透馬の事を好きになるなんて、思いもしなかった。
生意気で野蛮な、ただの一般人という認識だったのに。透馬の俺を想う優しい気持ちが、その認識をひっくり返したのだ。
「シャツ着せちゃったけど、また脱がしていい?」
耳元で囁かれる言葉に、恥ずかしくて頷く事しか出来ない。
「ちなみに俺の鞄って、どこにある?」
「そこの窓際にある、椅子の上だが……なぜだ?」
「ちょっと道具を取りに行きたいなと思って、あはは」
「道具って、何に使うのだ?」
困った顔をした透馬に、真面目に質問した。
「いや、その。濡れにくいコに使ってたモノを、取りに行きたくって」
「濡れにくいコ……。透馬お前って、鞄にいつもその様な如何わしいモノを、忍ばせているのか?」
「そのぅ、チャンスは降って湧いて出てくるから、いつも持参してます。なんちゃって……」
「やっぱり中止にするぞ、腹が立ってきた」
怒りながら起き上ると、無理矢理押さえつける透馬。
「この状況、今ヤルべきだろ! 折角お互い気持ちが通じ合ったっていうのに、逃げるなよローランド!」
「ちょっ、待つのだっ!」
「待ったなし、一発勝負だ……」
意味不明な事を掠れた声で告げると、俺の口を強く塞いだ透馬。
そして俺のシャツのボタンを、素早く外していくのだった。
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