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Come, say yes:結ばれたプロミス
「透馬どうしたんだ、その頬?」
「その……ローランドに殴られただけ。ちょっとケンカしたんだ」
現在自宅では、ホットプレートで焼肉という厳かな夕食を、某所の王子様を交え行われていた。
以前兄ちゃんがアンドリュー王子を泣かせたお詫びを、炭水化物パーティという形で、夕食が行われていたのと同様に、俺の不始末を夕飯でチャラにしようとしてる母親。
――不始末というか不祥事というか、ホントあの後、大変だった……
「待ったなし、一発勝負だ……」
そう告げてロウのシャツのボタンを、手際よくサクサクッと外していったまでは良かった。
「ふざけるなっ。他の女に使ったモノを安易にこの俺に、使うつもりか透馬!」
「だってそれがないと、スムーズに入らないじゃないか。そのままだときっと、お互いすごく痛いと思うよ」
「痛い痛くないの話じゃない、デリカシーのないヤツなのだな。まったく!」
「デリカシーがないって、何なんだよ一体?」
俺が不思議顔をしたらギロリと睨みつけ、無言でグーで殴ったロウ。
「痛っ……」
「もう少し男心を考えろ、このバカ者っ! 用意周到な策士のクセに、人の心が全く分かってないぞお前」
「ローランドって意外と馬鹿力で、繊細な心の持ち主なんだね」
起き上がって身なりを整えるロウの背中に、ポツリと告げると、忌々しそうに振り返る。
「本当にムカつくな。だけどそんな無神経なトコも、存外嫌いじゃないのだぞ」
「は?」
「無理に拉致って悪かったな。家まで送っていく、早く服を着れ」
頬を赤く染め、早口で言ったロウ。
ある意味一発勝負は、ローランドのKOで幕を閉じたのだった。
これって、先に惚れた方の負けなのかな……
はあぁと深いため息をついて、焼けている牛肉をひっくり返す。
ロウは眉間にシワを寄せ、相変わらず不機嫌120%状態。そんな俺とロウを、母親はハラハラした様子で見やり、兄ちゃんはニヤニヤしながら見ていた。
「透馬の母君、お願いがあります」
眉間のシワをすっと解き、ガタガタッと椅子から勢いよく立ち上がって、向かい側にいる母親に話しかけたロウ。母親の隣にいる俺は、不思議顔のまま、その顔を見上げた。
「なっ、何でしょうか?」
ビクビクしながら訊ねる母親、俺も一抹の不安を抱えた。
「透馬くんを僕にください!」
「はっ!?」
言いながらロウは頭を45度に下げ、お願いをしたのだが、その発言に一同同じ台詞で答えたのだった。
――出たよ、ください発言――
もう間違いなく、勘違いされるだろうに……
呆れた俺は兄ちゃんに視線を送ると、苦笑いをして小首を傾げる。
「ええっと、くださいって、一体?」
母親がしどろもどろに返答すると、頭を上げたロウがしっかり答える。
「母君が丹精込めて育てた透馬を、僕が貰ってしまうのは、とても惜しい事だと思います。でも僕はどうしても透馬が欲しい、透馬じゃないとダメなんです」
「ちょっ、待てローランド! 日本語が可笑しな事になってるから、ストップだっ」
「うわぁコレって、まさに愛のこくは――」
「兄ちゃんも変な事言うなよっ! マトモな日本語喋るヤツいないのか、マジで勘弁してくれ……」
「何で頭を抱えて唸っているのだ。俺の心の内を母君に知って戴く為に、真面目に話しているのに。酷い男だなお前は」
「それって、カミングアウトしすぎだろ……」
打ちひしがれる俺に代わり、兄ちゃんが事の成り行きを母親に分かるよう、丁寧に説明してくれた。
兄ちゃんのアシストに、和馬なかなかやるではないかと、ボソリと呟いたロウの言葉は、しっかり無視させてもらう。
「留学、ねぇ。一応お父さんにも報告しなきゃだけど、透馬はどう思ってるの?」
「どうって、う~ん……」
チラリとロウの顔を見る。
ロウは意志の強い眼差しで、じっと俺を見ていた。俺の国に来いと、念力を込めるかのように。
「行きたいって考えてるんだけど、不安があるのも確かだから」
そんな目で見られたら、抗えるワケないじゃないか。好きなんだから――
「お前の不安は俺が取り除いてやる。快適な生活を約束してやるぞ」
「まあ、頼もしい言葉ね。良かったじゃない透馬」
「まるで婿入りするみたいだ、良かったなぁ透馬」
俺はこの台詞に、どう答えればいいのだろうか?
満足げに微笑むロウに、愛想笑いで対応するしか出来なかった。
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