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 ぴちゃぴちゃと湿った音が、アザミの耳を犯している。  そこの引き出しにローションがあると言ったのに、取りに行く数秒ですら体を離すのが嫌だとばかりに、巨躯の男が身を屈めてアザミの後孔を舐めているのだった。    仕事の前後は、当然のことながらそこはきちんときれいにしている。  ……している、が。  こんなふうに舌を潜らせ、中を舐められるのは……たまらなく恥ずかしかった。 「ああっ、んあっ、も、もういいっ」  腰を捻って逃れようとするのに、がっしりと逞しい腕に足を抱えられているためそれは叶わない。  後孔の浅い部分をぬめぬめと舌が這い、唾液で潤されたそこに、脇から指が入ってくる。  指と舌で、アザミの体が暴かれてゆく。  コリ……と、男の指が感じるスポットに当てられた。  指の腹でぐりぐりと押される。 「ひぁっ、あっ、あっ、あっ」  アザミの腰が跳ねた。  無毛の陰部では、勃起したペニスがアザミの動きに合わせて揺れている。  そこから垂れた先走りの淫液が後孔まで伝って、男の唾液と混じって指の抽送をスムーズにした。  ぬちゅぬちゅと節の高い指が抜き差しされる。 「も、もう抜けっ、あっ、あっ、イ、イっちゃうから、抜いてっ」  アザミは下腹部に顔を埋めている男の、短い髪を握った。  しかし男は離れない。  アザミのそこをびしょびしょに濡らしながら、三本の指で孔を広げ続けている。  男の指は長いし、太かった。  三本もまとめると、その辺の男の陰茎よりも大きいかもしれない。  それをじゅぼじゅぼと動かされて、アザミは悶えた。  すさまじい快感が、後孔から電流のように全身に伝わって、痙攣が止まらない。 「ああっ、で、出るっ、あっ、は、離せっ! あっ、あっ、ああああっ」    ぐりゅっ、と中で指を回された瞬間。  アザミの鈴口から、ぴゅっ、と精液が飛んだ。  アザミの腹を汚した白濁を、ようやく後ろから舌を抜いた男が、べろべろと舐めとった。  しかし指は入ったままだ。  アザミの腹を舐めながらも、男が筋肉を浮かせた腕を動かして、孔を犯し続ける。 「ひぁっ、ああっ、も、もう、イった、イってるから、止まれっ」    うねる肉筒を掻き分け、ぬちゅっぬちゅっと指をピストンさせる男の手から逃れようと、アザミは仰臥の姿勢から体を横へと捻った。  ソファの端を持ち、うつ伏せになって逃げようとする。  そのアザミの腰を、男が掴んだ。  ずるり、と背後へ引きずり戻され、尻を高く突き出す格好になる。  唾液でぬらぬらと濡れた孔が、物欲しげにパクパクと蠢いていた。  髪を乱したアザミが、顔を背後へ振り向け……引き締まった腹筋を辿るように、視線を上へ流してゆくと、獰猛な男の目とぶつかった。  余裕がないのはアザミの方だと思っていたのに、男の方がよほど切羽詰まった表情をしていて……天を突く怒張も、張りつめんばかりであった。  アザミは熱っぽい吐息を漏らし、喘ぎすぎて乾いた唇を舐めた。  そして、弓なりに背を反らし、尻を上げた格好のまま、両手で自身の尻たぶを掴み、そのまま左右へと開いた。  肉の広がりに合わせて、孔も広がる。  男の喉が、ごくりと鳴った。 「……挿れて」    掠れた声で、アザミが男を乞う。  逞しい男根が、ふるりと震えた。   「おまえを……僕に、ちょうだい」  アザミが言葉を重ねると、男の手が、尻たぶを広げているアザミの手に被さってきた。  男のてのひらは、熱かった。    ぬるり、と尻の狭間に陰茎がこすりつけられる。  ああ、とアザミの唇から声が漏れた。  かちかちに勃起したその先端が、アザミの孔に据えられる。  襞を、掻き分けて。  男根が侵入してきた。  抱かれることに慣れたアザミですら、苦しいほどの大きさだった。    張り出したエラの部分が、前立腺を擦りたてながら隘路を割り開いてゆく。  アザミは声もなく、背を波打たせた。  激しい快感が、アザミの中で渦巻いている。  はっ、はっ、と荒い息がお互いの喉から吐き出された。    こつ……と、先端がアザミの奥に行き当たる。  巨竿がぜんぶ収まったのだ、とアザミは安堵を覚えたが、男がアザミの腰を掴み、ぐいと男の方へ引き寄せてきたので狼狽した。 「う、うそっ」  ぬくっ、と奥の奥が開かれた。  そこは……S字結腸だ。   「ああっ、あっ、だ、だめっ」  アザミは首を振ったのに、男は腰を止めなかった。  呻きながら、アザミの肉筒のさらに奥を犯した。  アザミの膝からちからが抜ける。  立てていられず、ずるずるとソファへうつ伏せになったアザミの動きに合わせて、男も下半身を密着させたまま、アザミの上に被さってくる。  腕を突っ張って、アザミに体重のすべてを乗せない配慮はするくせに、大きなペニスは根元まで容赦なくすべてを埋め込んで。  男がようやく、はぁ……と深い呼気を漏らした。  ひく、ひく、と痙攣するアザミの髪を、背後から男がそっと掻き分けて。  あらわになったうなじの、こつりと浮き出た骨の上に、唇が当てられた。 「……大丈夫ですか?」  興奮に上ずった声で、男が問うてきた。  その振動が繋がった部分から響いて、アザミの皮膚が粟立った。  それでもアザミは、翻弄されていると男に悟られるのが嫌で、無理やりに勝気な笑みを浮かべ、ちらと男の顔を振り仰ぐ。 「んっ……だ、誰に、ものを言ってる、ん、だい」    笑ったつもりだったのに、出てきたのは自分でも驚くほど、快感に蕩けた声で……。  媚肉が勝手にうねって、筋の浮いた肉棒を締め付けた。 「くっ……、き、きつい、です。少し緩めてください」 「ふふっ……おまえが……大きいんだよ。……あっ? ば、バカっ、もう、大きくするなっ」  苦しげに呻いた男を笑ったら、体内で男がさらに膨らんだのでアザミは焦った。  もういっぱいだ。  アザミの中は、男でいっぱいだ。  それなのに、男が嵩を増してゆるゆると動き出したから……。    「ああっ、あっ、あっ、あんっ」    深い部分まで男を受け入れて、アザミは喘ぐことしかできなくなってしまう。  前立腺と、結腸部分が同時に刺激され、おかしくなりそうだ。  ビクビクと跳ねる腰が止まらない。  ソファに押し付けるようにされているアザミのペニスからは、白濁がとろとろと漏れっ放しになっていた。   「ああーっ、だ、だめっ、だめっ」 「アザミさんっ、アザミさん、愛してます」    ぎっ、ぎっ、と壊れそうなほどソファを撓ませてアザミを攻め立てる男が、低い声でそう囁いた。  彼の愛の言葉が、アザミの耳で溶ける。    聞き慣れた言葉の、はずだった。  店の客にも、なんども言われてきた言葉だ。  アザミだって、上っ面だけのその言葉を、口にしたこともある。  それなのに。  なにが違うのだろう。    男の声に、アザミのこころはどうしようもなく震わされた。  愛してます、という。  その、儚いような、愛の言葉に。 「んあっ、あっ、あっ、あっ」  ぬちゅっ、ぬちゅっ、とぬめる音を立てて、男の欲望がアザミの中を行き来する。  腹の奥が、破れてしまいそうだ。  怖いのに、気持ちいい。  これまでにアザミを抱いた、他の誰よりも、男のペニスはアザミの内側を満たしていた。 「アザミさんっ、アザミさんっ」  男がアザミの名を繰り返す。  アザミはその段になって初めて、そう言えばこの男の名前すら知らないことに気付いた。  護衛とキャストが必要以上に仲良くならないよう、護衛は名乗ることを禁じられているからだ。  アザミだって呼びたい。   この男の名を、呼んでみたい。  それなのに、口から出てくるのは嬌声ばかりで。 「ああっ、あっ、あんっ、あっ、あっ、あああっ」  アザミを犯す男の動きが早まり、解放が近いことを教えてきた。  結合部が淫猥な水音を立てている。 「あっ、あっ、だ、出してっ、な、中に、出してっ」  アザミはソファの生地に爪を立てながら、男の精を乞うた。   男の喉から呻き声が漏れる。  肉棒が、膨らんで……。  ばちゅっ、と、一際奥に、それが叩き付けられた。 「~っっっっ」    アザミは絶頂へと押し上げられた。  射精を伴わない、ドライオーガズムだ。  目が眩むような、すさまじい絶頂だった。  アザミの後孔が、ぎゅううっと男を締め上げる。  それにつられるように、男が吐精した。  どぴゅっとまき散らされた精液が、アザミの中をしとどに濡らした。  はぁはぁと呼気を弾ませて。  二人は声もなく体を重ねた。    背後から男にきつく抱きしめられたアザミは。    かつてないほどの充足感に、ゆったりと瞼を閉ざしたのだった……。         

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