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5.背徳の晩餐 -3

食べている間、祐仁の目が颯天から離れることはない。 もとい、テレビを見ながら食事をする颯天の家とは違ってここは静かで、祐仁が関心を持つ対象は颯天に限られる。 颯天のほうが目のやり場に困った。 見られながら食べる習慣はなく、味がよくわからないのはきっと気が張っているからだ。 「朔間さんは食べないんですか」 椀子(わんこ)そばのように次々に口もとに向けられるスプーンの合間を狙って、颯天は早口で云った。 「あとで食べる。……ゆっくり、な」 祐仁は思わせぶりに付け加えた。 スプーンを置いた祐仁は、今度はスペアリブを抓んで颯天の口に近づけた。 颯天は祐仁が持つスペアリブに食いつき、顔を背けるようにしながら肉を咬みちぎった。 颯天が食べきると、祐仁は残った骨を空っぽのプレートに捨てる。 向き直った祐仁はおもむろに手を差しだした。 指先が颯天の口もとすれすれのところで止まる。 問うように見上げると―― 「手が汚れた。舐めてくれ」 祐仁は新たな命令を放ち、颯天が躊躇(ちゅうちょ)したのは一瞬、口を開けて祐仁の指先を口に含んだ。 人差し指と中指の先には、ニンニクとオリーブオイル風味の味がかすかに残る。 颯天はそれを舐めとると親指に移った。 吸いつくようにしながら顔を放していき、口から指が抜けた。 祐仁を見上げると、目を細めてかすかに眉間にしわを寄せている。 何が気に喰わないのだろう。 そう思っていると、祐仁は形だけの笑みを見せた。 皮肉っぽくもなく、嘲るのでもない。 「今度はおれが空腹を満たすばんだ」 祐仁は立ちあがり、颯天が座った椅子を九十度まわして向きを変えた。 別の椅子の背に手を伸ばすと、ベルトを二つ手に取った。 そんなものがあるとも気づかなかったが、ベルトで何をするつもりなのか、颯天には見当もつかない。 颯天の疑問をよそに向き直った祐仁は躰を折って、膝と膝の間に手を入れた。 「な、なんですか」 「いまさら足掻(あが)くな」 軽くあしらい、祐仁は脚の間に通したベルトで右脚と椅子の脚を一緒に括った。 颯天は革のしなやかさを感じながら、それがベルトではなく拘束用のバンドだとわかった。 ふくらはぎの上を適度に締めつけられて、本能的に閉じようとしたがかなわない。 「朔間さんっ」 祐仁は顔を上げ、見下ろしながらも顎を引いて上目遣いで颯天の目を捕らえた。 「縛られてるほうがラクだぞ。縛られてたからしかたなかったって自分への口実になる。おまえ、自我が強そうだから」 気を遣っているようでいて、その実、祐仁の目を見れば容赦なく颯天を好きにするつもりなのだと察せられる。 祐仁の云うことに一理あると思いながらも、気持ちはついていかない。 本気で抵抗するべきか迷っているうちに左脚も固定され、椅子を(また)ぐような恰好になり、躰の中心が無防備に晒された。 「食べろ。桃のシャーベットだ」 颯天の羞恥心を気にも留めていないのか、祐仁は空腹を満たすのは自分だと云っておきながら颯天にスプーンを向けた。 クリーム色をしたシャーベットは山盛りだ。 ほかのを食べている間、置きっぱなしにしていたせいで溶けかかり、一滴二滴とちょうど颯天の開いた脚の間に落ちる。 「毒も薬物も入っていない。ただ冷たいだけだ」 颯天が避けるように顔を引くと、祐仁はそう云ってスプーンを自分の口に持っていき、舌を出して舐めた。 毒見したあとそのまま颯天の口もとに当てられ、くちびるがひやりとする。 逆らっても無駄だし、食べさせられることはいまさら逆らうほどのことでもない。 颯天は口を開けた。 祐仁が云ったとおり、口腔には桃の味が広がる。 甘いものは苦手でもなく、甘さ控えめのシャーベットもいいが、山盛りのシャーベットは感覚が麻痺しそうなほど口の中をひんやりとさせた。 二度め、スプーンが迫ってきた。 「もう――」 ―いい、と拒みかけたがさえぎられ、くちびるの隙間に押しつけられれば食べざるを得ない。 それが祐仁の意志だからだ。 颯天が一度に口の中に入れてしまうと、祐仁はスプーンを器に戻した。 三度めはないらしい。 シャーベットを呑みこむように食べた矢先、祐仁は身をかがめたかと思うと颯天に口づけた。 んんっ。 緩んでいたくちびるが舌で割られる。 無遠慮に侵入してくると、祐仁の舌は驚くほど熱く感じた。 舌の這った感触がくっきりと痕を残していく。 舌に絡みつき、吸いつかれると温度差がどうしようもなく心地がいい。 舌が痙攣(けいれん)するほど快感に侵された。 快感は下腹部に伝達され、また熱を持ったように感じて颯天は焦った。 んくぅっ。 喘ぎながら首を横に振ると、祐仁はあっさりと離れていく。 「どうだ、シャーベットの効果は? 気持ちいいだろう」 「……あたりまえに熱く感じただけです」 ふっと祐仁は可笑しそうに息をついた。 そうして祐仁が颯天の下腹部に手を置いたとたん、颯天はびくりと躰を揺らす。 そのさきは自ずと察せられる。 「さっきまで()えてたのにな、キス一つで半勃(はんだ)ちしてるぞ。触ったらどうなるんだ?」 祐仁がにやついた云い方で(あお)り、颯天の中心を捕らえた。 背中から粟立(あわだ)つようなぞくりとした感覚が走り、身動きが取れないなかでも胸を反らし、颯天はびくんと腰を突きあげる。 あっ、あああっ。 颯天のものを包みこんだ手は扱くようにしながら先端へと抜けていく。 その間、颯天はがくがくと腰を揺さぶっていた。 どうにか快楽を(こら)えた颯天は、解放されたあと激しく喘いだ。 「バージンはただでさえ反応がいい。委縮する奴もいるけどな、おまえは違うみたいだ。淫乱な愛人になる素質がある」 祐仁は悦に入った声でつぶやいた。 とてもまともには聞いていられない、受け入れがたい言葉だ。 颯天は顔を背け、息を整えようと努めた。 温度差の口づけとちょっと中心を弄られただけで、いまから自分に何が起こるのかを予感させた。 考えたくない。考えると恐ろしい。 快楽を逃すためには冷静さを失わないことだ。 自分に云い聞かせるさなか、器とスプーンがぶつかる音がして、直後、再び中心がくるまれる。 ぅわぁああっ。 中心を捕らえられただけではなかった。 祐仁の手は恐ろしく冷たかった。 躰全体が冷たさに総毛立ち、危うく()ぜそうに太くなっていた中心は一気に委縮した。 それでも祐仁は颯天のものを離さず、冷たさを塗りたくる。 桃の香りが鼻腔を撫でていく。 冷たいという感覚すら麻痺しそうなのをかろうじて防いでいるのは、シャーベットの膜越しに感じる祐仁の手のひらの温度だ。 敏感な場所で、触られている感触は確かにあり、颯天はその触られているということに意識が集中しておかしな気分になっていく。 くくっと喉の奥で笑う声がした。 「腰をびくびくさせて卑猥(ひわい)だ。さすがに萎えたけど、颯天はそれでも感じてるんだな。だんだん太くなってる」 再び含み笑った祐仁はそこから手を離し、今度は颯天の胸に両手をつく。 ひ、ぅっ……。 中心が覆われたときのショックよりも軽減されていたが、やはり冷たく、ヘンな声が出そうになって颯天は慌てて下唇を咬んだ。

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