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7.欲しくてたまらないもの -1
達しても祐仁の手は颯天を離さず、白濁した蜜を搾 りとるように擦りあげる。
後ろを侵していた指がぬぷりと出ていき、惜しむように後孔が閉じていく。
その刺激がたまらず前に及んで、最後の力を振り絞るように蜜は出尽くした。
壁に突っ張っていた手が滑り、脚は突然、砕けたようにがくっとくずおれた。
素早く祐仁が腰を抱いて颯天を支える。
骨までも蕩けたように力が入らず、颯天は背中から祐仁に寄りかかった。
祐仁はシャワーを取って汗ばんだ颯天の躰を洗い流していく。
水圧が乳首や萎えたオスに襲いかかると、颯天は陸に揚げられた魚のように躰をぴくっと跳ねさせた。
快楽は冷めきったはずが、そのちょっとした刺激によって躰は次の快楽を求め始めたのか。
「自分でベッドに行けるか? 行けないなら運んでやる」
「自分で行く」
囁くような声しか出なかったが、颯天は即行で返事をする。
祐仁は堪えきれなかったといった気配で、喉の奥でこもった笑い声を放った。
「さきに行け。すぐ行く」
祐仁の支えがなくなると、颯天は少しよろけたものの、すぐに体勢を立て直してバスルームを出た。
躰を拭くのもそこそこにベッドルームに行くと、颯天は背面から飛びこむようにベッドに横たわった。
ふとんを剥いだシーツはいかにも質がよく颯天を受けとめる。
深呼吸を一つして快楽の余韻を静めていった。
この部屋は祐仁の趣味なのか、臙脂 色と亜麻 色を基調にしていて落ち着く以上に温もりが感じられる。
肉桂 色の天井は、カフェのようにわざと褐 色の梁 か、もしくはそれに似せたものが並列している。
どれ一つ取っても洗練された雰囲気があって、やはり颯天と祐仁は見る世界がまったく違っている。
梁のように交わることのない平行線をたどっている気がしてならない。
――おれは交わりたいのか?
自分に投げかけた疑問は直後、颯天自身に衝撃を与えた。
嫉妬じみたことを云ったり、天井の梁を自分と祐仁の関係に重ねてみたり、嫌だと云いながら結局は祐仁によってまるで身を焦 がすように快楽を享受している。
おれは交わりたいのか?
自らに同じ質問をなしたとき颯天は足音を聞きとり、答えを出すことへの模索は中断させられた。
足下のほうから祐仁がやってくる。
颯天も裸で半ば大の字に寝転がり何一つ隠していないが、祐仁はそれ以上に自信たっぷりといった様で裸体を晒している。
小学生時代から高校までサッカー部にいた颯天は、それなりに躰が鍛えられていて軟弱ではない。
祐仁は明らかに、鍛えることを目的にして鍛えている、そんな躰つきをしている。
かといって無駄に鍛えすぎているわけでもない。
張った肩から適度に盛りあがった上腕と血管筋の浮かぶ前腕、そして胸から腹、そして脚へと隆起が美しく完璧に形成されている。
その美を手に入れたいと――自分のものにしたいと思う男もいるだろう。
――と考えて、そんな気持ちに納得する時点で、颯天は先輩としての憧れ以上の気持ちをすでに持っていると観念せざるを得ない。
認めないと悪足掻きしたところで、なかったことにしたり消去したりはできない。
そんな簡単な気持ちなら、さっさと認めて祐仁に飽きられるまで快楽を貪ればいいだけの話だ。
簡単ではないから逆らう。
「何を考えてる」
「朔間さんのことです」
ベッドの傍に立ち、祐仁は目をわずかに見開いた。
「なんか素直だな」
「それを望んでるのは朔間さんでしょう」
颯天は左肘をベッドついて躰を横向きに起こしながら右手を伸ばした。
颯天は祐仁から快楽を与えられるだけで、まだ祐仁に触れたことがない。
触れたいという気持ちに従った素直な行動は、祐仁のモノに触れる寸前、手首をつかまれて制された。
「なんで触らせてくれないんです? 愛人として調教するなら尽くすことも必要なんじゃないんですか。それとも、朔間さんは攻められ慣れしてないとか?」
「どういう意味だ?」
祐仁は首をひねるとベッドに上がってきて、颯天を押し倒しながら躰を跨がると腿の上にのった。
オスとオスが触れ、颯天はかすかに身をよじる。
祐仁は躰を倒して颯天に伸しかかった。
下腹部で中心が潰れるように密着する。
呻く颯天と違って、なんの感覚もなさそうな祐仁は颯天の肘の部分をつかみ、ベッドに貼りつけた。
「朔間さんのバックの人、マゾなのかと想像してるだけです」
有力者の愛人と認めながら、祐仁にそういった気配はまったく感じとれない。
春馬の話からすると、祐仁は調教者側で愛人の立場とは相容れない気がした。
それなら、そういう嗜好のある有力者なのかと考え至るのもおかしくない。
それなのに、祐仁は失笑した。
「そんなに気になるか、おれのことが?」
祐仁は強調するように付け加えた。
「気にしてほしいんでしょう、おれに?」
同じように云い返すと、祐仁はにやついた顔を引き締め、じっと颯天を見下ろす。
冗談を飛ばすのでもなく、かわすわけでもない。
しばらく静止していた祐仁はやがてふっと笑みを漏らした。
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