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7.欲しくてたまらないもの -4

いいか、 と口を寄せたまま囁かれた言葉は熱くこもって、颯天のくちびるを湿らせる。 それだけで颯天はのぼせそうになった。 「そうしてください、早く」 声がかすれているのは欲情のせいか、あまり考えることもなく返事をしたかもしれない。 祐仁はそれを見越したように薄く笑い、颯天の腕を解放するとその頬に手を添わせる。 「颯天、おまえは可愛い。至上の愛人だな」 云った直後、祐仁は出し抜けに切迫した面持ちになる。 それだけなんらかの深刻さを抱持(ほうじ)しているという証明なのか、颯天を襲ったキスは、ずっと獲物を待っていた獣のようだった。 颯天の舌は深く強く吸いつかれ、痛みすれすれの快感が神経を侵していく。 心地よさに痙攣する舌は、それを及ぼす祐仁にも快感を与える。 颯天を食べ尽くしたい、とその気持ちは危害を加えることになるかもしれないほど強い。 そうして抑制した反動で喘ぎながら祐仁は顔を上げた。 躰を起こして祐仁が離れていくと、けっしてクーラーが利きすぎているわけでもないのに、颯天は一気に体温の熱を奪われたように感じた。 それは―― なくてはならない。 颯天にとって祐仁はそんな存在になっていくだろうことを予感させる。 「祐仁……あ、ああっ」 呼びかけているさなか、颯天のオスが握りしめられた。 根元を締めつけられていなければ、独り果てていたかもしれない。 それほど、ただ捕らえられただけのことが強烈な快感になっている。 親指の腹がオスの突端を撫でると、嬌声を放ちながら自ずと颯天の腰が跳ねあがった。 「もう準備万端だな。太くなって濡れ濡れになってる」 親指の滑る感触から、先走っていることは颯天自身もわかりきっている。 「あ……祐仁、の……くっ……せい、だっ」 喘ぎながら祐仁に責任をなすりつけると、含み笑いが返り、そうして祐仁は手を離した。 次の瞬間には、颯天の腰がつかまれてくるりと裏返しにされた。 今度は背中に伸しかかり、祐仁は颯天の手の甲に手を重ねて指を絡めてくる。 耳もとに息遣いが聞こえた。 「はじめてでも、おまえなら……おれにやられるんならちゃんと逝けるはずだ。逆らうなよ。痛みの向こうにある快楽を楽しみにしておけ」 云い終えたあと、祐仁は颯天の耳全体を含むようにしながら咬みついて、吐息を吹きかける。 ぞくぞくと鳥肌の立つ感覚が生じて、颯天は痙攣するように全身をふるわせた。 それだけでは終わらず、祐仁は舌を出して耳孔(じこう)を弄りまわす。 祐仁の躰が重石になりながらも、びくびくと腰は上下してしまう。 双丘の間に祐仁のオスが添い、颯天の声とは違う呻き声が漏れてきた。 颯天のものでなければ祐仁の声に違いなく、これまで一方的だった快楽を共有していることが颯天の悦びに転化される。 とはいえ、手はベッドに縫いつけられ、身動きができずに一方的にやられているのはこれまでと同じで、祐仁が耳もとから離れていったとき颯天は半ば力尽きていた。 肩から背中へと口づけは流れていき、祐仁の重みが背中からなくなったと同時に、腰がつかまれた。 臀部が高く持ちあげられ、膝を立てるという姿勢は、まるで無防備に捧げるようだ。 颯天は俄に焦る。 祐仁は逆らうなと云ったが、本能的に避けたがるのはどうしようもない。 どうにかベッドに手をついて颯天が顔を上げる間際、祐仁の口づけは腰もとから双丘にのぼっていき、そして谷間に舌が添った。 「あっ、祐仁っ、そこは――っ」 これまで指と性具でさんざん弄られてきたが、後孔をじかに口づけや舌で刺激されたことはない。 まるで生き物のようで――祐仁という生き物の一部には違いなかったが、異様な感覚を引き起こされる。 う、あ、ぁあああっ。 熱く濡れた未知の感触がたまらず、颯天は喉をのけ反らせて叫ぶように嬌声を放った。 天井を仰ぐように喉が反り返ったぶん背中が(しな)い、颯天は祐仁に双丘を押しつけてしまう。 その好機を捕らえて祐仁は双丘の間に顔をうずめると、腰を抱くように押さえつけながら颯天が逃げられないよう固定した。 祐仁の舌が後孔の周りをじっくりと舐めまわす。 けっして後孔には触れず、中心に向かって(すぼ)んだしわをほぐしていく。 恥ずかしさは消えきらなくても、逃れられないとあきらめた颯天は、祐仁の舌に意識をやり、その動きを鮮明に感じながらまたもどかしさを募らせた。 はっ、ふぁっ、んふ、ぁあふっ……。 舌っ足らずの喘ぎ声は止まらず、後孔は疼いてひくひくとうごめいている。 あまつさえ、颯天のオスはもっとはっきり反応を示している。 淫蜜がツーッと体内から先端へと下り、シーツの上に垂れて染みこむ。 「ゆ――じんっ、我慢……んはっ……できなく、なるっ」 後孔が伸びきって緩んでいくようで、颯天は心もとない。 そうやって祐仁を迎えようとしているのかもしれない。 「我慢しないで逝っておけ。そっちのほうが力まなくてラクだ」 祐仁は云いながら、口づけるかわりに人差し指を後孔に沈めた。 ぬぷっと艶めかしい濡れ音がするのは、そこに纏わりつく祐仁の唾液のせいか。 祐仁は第一関節まで入れるとすぐに引き出し、それを何回も繰り返す。 その間に、颯天からかまえていた気持ちは消えた。 後孔は熱を帯び、蕩けだしていくような感覚がする。 それを見越したかのように祐仁の指がぐっと中に入ってきた。 痛みはなく、抽送が繰り返されるごとに感度が上昇する。 後孔も腸道も、なぜこんなに感じるのかわからない。 祐仁の調教によって颯天の性感は開かれた。 教えの延長で、颯天は自ら性具を使わされてきた。 今日も命令されていたとおり、家を出てくるまえに自分で自分の躰を慣らしてきた。 もはやそれを無理やりやらされているとは云えない。 いざ使いだすとまるで祐仁にそうされているようで、果てるまで止まらなくなる。 祐仁の云うとおり、颯天は淫乱なのかもしれなかった。 いまも腰がふるふるとふるえて、祐仁にはもっととねだっているように見えるだろう。 いや、それも否めない。 颯天の無言のおねだりに応えるように祐仁は指を二本に増やした。 拡張されたきつさは長くは続かない。 「あ、あっ、そこはっ……ああっ」 祐仁は迷わずに颯天の弱点を突いてきた。 「ゆーじ、んっ、ベッドが濡れっ……あ、ああっ」 漏らしてしまう。 そんな怖れから叫ぶも、祐仁は容赦なくそこを揉みこむように弄る。 「颯天、羞恥心は快楽の増幅剤だ。だろう? 恥ずかしくなるほど、まき散らして濡らせばいい」 祐仁の言葉が颯天を羞恥心から解き放った。 けれど、逝きそうになる寸前、祐仁は弱点からゆっくりと指を退かせた。 腸道に生理現象と紛うような感覚が起こる。 指が抜けだした瞬間、排出の快感を押しつけられた。 ふ、ああっ。 だらしない嬌声がこぼれる。 締まりがなくなった口から中に溜まった唾液がこぼれ、口角から顎へと伝った。 まったなく、排出の快感が残る後孔にまた指が挿入されると、がくがくと尻がふるえた。 祐仁は奥まで入れることなく、入り口を広げるように指先をまわす。 きっとそこも弛緩(しかん)しているのだろう、ひたすら快感に襲われる。 そうして一気に指先は奥へと進んできた。 迷うこともなく弱点が引っかかれた刹那。 かすかな音を立てて噴いたのは精か淫水か。 自分でも区別がつかないまま、颯天はあとを追うように悲鳴じみた嬌声をあげた。

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