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10.乱れぬ足音 -1

Eタンクのアンダーサービスエリアといえば、祐仁が所属していたところだ。 あれ以来、祐仁がどうなったのか、まるでわからない。 フィクサーとはだれだ? それがだれにしろ、颯天が断ることはできない。 もとい、断ろうとも思わない。 Eタンクに潜入すれば、祐仁の現況がわかるかもしれない。 会える可能性だってある。 そんな本音を隠しながら、なんのために監視するのか聞かされないまま清道と永礼に忠誠を誓った。 凛堂会も清道も、Eタンクとどの程度のコネクションがあるのか、どうやって潜入させるのか、そのときが来るまで颯天は想像もつかなかった。 それは男娼だからこそ、そしていかにも男娼らしいやり方だった。 連れていかれた場所は、いつか永礼に伴われて見たショーがあったところだ。 スリーサイドステージ型の舞台部分には椅子型の診療台のようなものが並べられている。 何をされるのか、およそのことは嫌でも見当がつく。 裸に剥かれて口もとには猿ぐつわ、そして黒い袋を頭から被せられ、何も見えない状態で椅子に座り、開脚した膝を固定された。 そうされたのは颯天だけではなく、あと四人、だれともわからない初対面の男たちが並んだ。 「気に入られるかどうか、それはおまえたち次第だ。(とうと)い方の専属だ。いまより(はる)かに待遇はよくなる。それを望むのなら精々がんばることだ」 永礼の声が広い空間に反響した。 立ち会っているのは永礼以下、凛堂会の連中ばかりで清道の姿はない。 同席するには都合の悪い理由があるのかもしれなかった。 そして、気に入った男娼を指名するのは、その『貴い方』というフィクサーか。 ただの品評会なら立たせておくだけでもかまわないはずだ。 何がある? 想像したとおりのことか。 けれど、顔を隠すということになんのメリットが、あるいは目的がある? 例えば、選んだあと、気に喰わない顔だったら? それは無軌道に思え、答えはもらえないとわかっていながら脳裡で疑問を並べ立てているなか―― 「どうぞ」 と横柄に云う永礼の声が聞こえて、そのあと颯天は新たな靴音を聞きとった。 カーペット敷きの床面を叩く音はこもっているが、一糸乱れぬといった一定の間隔で足音を響かせることによりその自信の有り様を映しだしている。 そうして、椅子がわずかに振動したかと思うと背もたれが後ろへと倒れていった。 斜め四十五度くらい傾いたのか、目隠しされた状況では仰向けになった感覚がする。 手は頭上でひと纏めにして手首を括られ、開脚した下半身はすべてを晒すという、恥ずかしさを超えて屈辱的な恰好だ。 祐仁に会えるなら――とそんな期待がなければもっと心底で足掻いていたかもしれない。 男娼として尽くすことが性分のようになってしまったいま、もう悪あがきにすぎないが、プライドまでなくしたわけではない。 いつか――とそんな機会をいつも窺ってきた。 それがきっといまだ。 終始監視され、単独ですごすことはおろか外出することもままならない凛堂会からやっと抜けだせる。 ふっ。 不意打ちで乳首を何かに挟まれ、颯天はびくっと躰をくねらせた。 視界をさえぎられたいま、何をされても不意打ちになる。 そこに痛みはなく、こわばった躰から力を抜いた直後、振動し始めた。 感じるはずはないと思っていた胸の突起は、人に触れられれば敏感に反応してしまうようになった。 それが機械の振動となればひと溜まりもない。 んふっ。 身をふるわせながら喘いだ声は猿ぐつわに(はば)まれて、快感を発散できない。 緩和しようにも躰は拘束されて方法がなかった。 せめて、気を散らそうとほかの男たちに意識をやるが、こもった吐息が聞こえた次には、颯天は無理やり自分の快楽に引き戻された。 背中を反らしながら躰全体がびくっびくっと何度も反応する。 足音をかすかに捉え、すると後孔に何かが浅く挿入された。 胸の刺激に囚われて異物を押しだす力は掻き集められず、温められた粘着質のローションが隘路に注入される。 挿入器具が引き抜かれた。 ローションは自分の体液でもないのに、垂れ流してしまうのは恥ずかしい。 (すぼ)めたはずが、そうするのをわかっていたかのように乳首を挟んでいた性具が引っ張られる。 振動しながらそれが離れていく瞬間の摩擦は、颯天の思考を一気に融かすようだった。 んんんっ。 躰の中心は脈を打ちながら血を滾らせ、反応した後孔からはとろりとひと筋のローションが漏れだした。 だめだ、このままではすぐにも逝ってしまう。 果たして“貴い方”が男娼に望むのは何か。 その片鱗(へんりん)もわからない状況下、どう性遊戯で反応することが望まれるのか。 快楽をコントロールする術はそもそも颯天にはなかった。 颯天がコントロール可能なのは、心をごまかし、偽ることだ。 それから待ったなく後孔に触れたものは、さっきよりも遥かに質量があった。 それが押しつけられ、じわじわと孔が開いていく。 ぬぷっと入りこんできたそれは人のものではなく、やはり性具だった。 ほかの男たちと公平を期すためか、いずれにしろ颯天にとっては問題にならない。 ぐっと沈みこんで隘路をいっぱいに見たし、そのスイッチが入った。振動は腸壁を通して快楽点を刺激してくる。 ふぅっ、ん、んっ。 縛られた躰を限界までびくつかせ、触られてもいないオスが果てを求めて屹立する。 たまらなかった。 逝く刹那。 「これをもらう」 その低く冷ややかな声が耳に轟くと同時にオスがつかまれ、颯天は腰を突きあげて達した。 それは快楽のせいばかりではない。 すぐ傍で聞こえたのは、ずっと待ち望んだ声だった。

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