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11.秘密結社 -2
エレベーターではなく階段に向かい、祐仁は上階へと上っていく。
二歩くらいあとをついていく間、祐仁はどこに行くのかも教えず、そうなれば颯天からも口をききづらい。
足音だけがやたらと鳴り響く。
上階の踊り場に着くと、扉の横に『5』という大きな表示がある。
祐仁は、その下の壁に取りつけられたリーダにカードをかざした。
読みとり音が鳴って、それでも扉がすぐに反応することはなく、エラー音が続くわけでもない。
スライドして扉が開くまでにタイムラグがあったことを考えると、顔認証だったり危険物探知機だったり、そんなシステムが動いているのではないかと思った。
少なくとも、監視カメラはある。
階段は通常、非常用として使われるはずが、これではいざというとき建物から逃げる妨げになるのではないかと、颯天は不要な心配をした。
五階のフロアに踏み入ると、そこはオフィスというよりはブラウン系で統一された上質なホテルといった雰囲気だった。
素材は床も壁も柱も大理石のようで、本来は温もりを感じるはずのブラウン系の空間に冷ややかさが混じった。
外部からの見た目ではわからないが、建物の中央は四角い吹き抜けになっている。
各フロアを覗けるが、内側が通路になっていてオフィスまで覗けるわけではない。
加えて三階以上は等間隔の細いスリット窓が取り入れられ、吹き抜け部分に近寄ればその窓から一望できるが、遠目には壁が邪魔をしてしまう。
つまり、三階以上の上層部からは下を見渡せても、下から上層部は見えないようになっているのだ。
それは、上に行くにつれて地位的に高いことを示す。
そう察すれば、セキュリティの厳重さといい、建物は要塞のようにも感じた。
これからだれに会いにいくのだろう。
おそらくは颯天がこのフロアを訪れる機会などないに等しく、それなら祐仁がただ五階のフロアを案内しているはずもない。
つまり、要人に会わされるのだ。
それとも、客人が待っていて、昨日、祐仁が云っていたように早くも颯天は駒として、あるいは男娼として用立てられるのか。
いや、そうだとしてもこのフロアであるはずがない。
それがEタンクの要人でないかぎり。
やがて、男二人が用心棒のように立ちはだかった場所までたどり着いた。
祐仁は足を止め、丁重に一礼をした男たちの一人をじろりと見やる。
どうぞ、とその男はドアに手をかざした。
センサー式なのか、ピッと小さな音が聞こえた直後にドアがスライドした。
「行くぞ」
祐仁がちらりと振り向いて、音になったか否か、控えめの声で颯天に命じた。
「はい」
祐仁のオフィスも広いが、そこはもっと、無駄すぎるほどだだっ広かった。
右奥に巨大なデスクがあり、寄り添うように置かれた二つのデスクは、それ自体もかなりスペースを取る大きさでありながら小さく見えてしまう。
男二人ともが颯天の後ろから入ってきたのをみると、二つのデスクはそれぞれ彼らのものかもしれない。
ただ、彼らがデスクに戻ることはなく、颯天たちの背後に立ったままだ。
それは警戒してのことか。
祐仁は躊躇せずまっすぐデスクへと向かい、その向こうに座った男の正面で立ち止まると、深く一礼をした。
颯天もそれに倣 う。
「失礼します。緋咲 ヘッド、連れてきました」
祐仁が横へとずれ、「高井戸颯天です」と続けて颯天を紹介をした。
颯天は男とまともに対峙する。
見た瞬間に思ったのは、だれかに似ている、だった。
緋咲は、体格は座っているからなんとも云えないが、面持ちは精悍でありつつ端整でもあった。
眼光は鋭く、迷いやためらいなど弱みは一切存在しないかのようだ。
永礼もそうだが、永礼のような冷酷さは見えない。
というよりも、あえて見せないようにしているといったほうが正しい、と颯天はそんな気配を感じとった。
緋咲はゆっくりと立ちあがった。
得てして、颯天が背が高いゆえに地位にこだわる者ほどその背が低ければ、立って颯天と向き合うのを避けたがる。
デスクをゆっくりとまわってくる緋咲はけれど、その必要がないほど背が高い。
目の前に来た緋咲と同じ高さで目が交差した。
「私はエリートタンクの表裏で代表に就く。緋咲真人 だ」
どう自己紹介をすればいいのか、一つ言葉を間違えればその後、将来まで違ってきそうなプレッシャーを感じた。
言葉だけではない、助けを請うべく祐仁を見やることさえ間違いになるやもしれない。
颯天は振り向きたい衝動を堪えつつ――
「高井戸颯天です」
と名乗ることしかできなかった。
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