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15.闘乱の食前酒 ‐4
祐仁はベルトを解き、スーツパンツのボタンを外してジッパーをおろす。
椅子に座り、鷹揚 に脚を広げていく様は獰猛な獣が牙をひそめて無防備にいざなうように見える。
その実、こっちが油断するのを待ち構えている。
わかっていても見入ってしまっていた颯天は、祐仁が首を傾けたのを見てハッと我に返った。
颯天は立ちあがって、昼間の再現を忠実になすべくTシャツを脱ぐ。
そこまでは普通にできたが、ジョガーパンツに手をかけた瞬間ためらった。
人前で裸になることにもうためらいはないはずが、祐仁の前でだけ、なぜかひどく羞恥心が湧いて手が思うように動かなくなる。
祐仁がいるとわかっていたオークションの舞台では、羞恥心がよけいに快楽を煽っていた。
すべて知られていて隠すものは何もない。
そう自分に云い聞かせて、ジョガーパンツとボクサーパンツを同時に脱ぎ捨てた。
颯天のソレは早くも反応しかけている。
そのことも羞恥の要因かもしれない。
祐仁に触れられる、とそれだけで颯天は欲情に逸 っているのだ。
会えなかった間もずっとそれを切望していたからこその反応だった。
颯天は祐仁の前に行ってひざまずいた。
はだけられたスーツパンツの下に手を忍ばせ、ボクサーパンツを前だけ引きおろす。
祐仁のソレはじかに目にするまえからそうではないかと思っていたとおり、颯天と同じように反応しつつあった。
根元をつかんだとたん、颯天の手の中でそれは著しくオス化した。
いつも襲われる側だった颯天にとって、祐仁の慾を間近で見たのもはじめてであれば触れたのもはじめてだ。
自信を持つ男はこうあるべきとばかりに、永礼や清道と同様、祐仁のモノも、悪魔的にいびつで太い。
それが毒とわかっていてもその誘惑には勝てない。
颯天は顔を近づけていきながら口を開いた。
そうしながら祐仁が呻いたと思うのは気のせいか。
けれど、先端にくちびるを被せたとたん、祐仁ははっきり吠えた。
口の中に潮の味が広がり、それは颯天にとって蜂蜜のように甘ったるさを感じさせる。
もっと、とそんな欲求のまま吸引すると、オスはくるんだ手のひらをはね除けんばかりにびくびくっとうごめいた。
颯天は顔をおろして口腔の奥深くへと含んでいく。
舌を絡ませるたびにオスが暴れる。
口の中で身動きが取れないほどだんだんと硬さと太さを増していくようで、その満ち足りた感覚が気持ちにまで及ぶ。
顔を上げながら、尖らせた舌で裏筋を舐めていく。
潮味が尽きることなく、颯天の唾液と混じり合う。
くちゃくちゃと嫌らしい音を立て快感を煽った。
オス化した颯天のモノが、触られてもいないのに熱く疼く。
そうして祐仁のように、先端から蜜をとめどなく溢れさせ、粘液の裏筋を伝う感触が快感をさらに誘発していた。
「颯天っ」
搾りだすような声は祐仁の限界を知らせた。
そんなに時間はかけていないはずが、祐仁もまた颯天のように快楽に弱いことを思いださせた。
あの離別の日、はじめてわかったことだ。
いまこうして触れさせてくれることのうれしさは快楽へと変換され、陶酔させられる。
欲求に従い、颯天は責め立てた。
舌を絡ませつつ顔を上下させ、なお且つ、先端に及んでは小刻みに舌で孔口をつつき、そうして吸着した。
祐仁が腰をうごめかせる。
杭がこれまでになく太くふくらみ、颯天は頬が窪 むほど吸い着いた。
とたん、祐仁はびくんと腰を突きあげた。
颯天の喉の奥にオスの先端が嵌まり、嘔吐く。
祐仁はその刺激にたまらず咆哮して直後、精を迸らせた。
熱い蜜は喉を下っていき、それはまるで颯天を蕩かすような感覚に陥れる。
ましてや祐仁の白濁した蜜は中毒性を持つのかもしれない。
颯天は飢えたようにこれでもかと吸引を繰り返した。
祐仁は腰を突き上げながら何度も吠え、そうして颯天が搾り尽くした刹那、祐仁は沈みこむように躰を椅子に預けた。
吸着しながら離れた瞬間、断末魔の最後の力を振り絞るように祐仁は身ぶるいをした。
颯天は思いのほかのぼせていて、立ちあがるにもよろめいてしまう。
「大した娼夫だ」
呆気なく快楽を放った祐仁の強がりでもあり、やられたらやり返すという表明でもあった。
息を荒げたまま、躰を起こした祐仁は颯天の直立したオスをつかんだ。
あああっ。
颯天は自分でも驚くほど、甲高い嬌声をあげた。
一度、上下しただけでふわりと躰が浮きあがるような快楽に侵される。
目隠しをされたまま再開した日は、祐仁の声に逝かされたようなものだった。
いま、じかに触れられて、それだけで爆ぜそうになる。
なんとか堪えたものの、濡れそぼつ先端を親指でぬるぬると撫でられればもうたまらなかった。
「祐仁っだめだっ」
切羽詰まって叫んだ。
「もう逝くのか」
その言葉にも煽られる。
意地悪くも最も敏感な孔口を抉られて、颯天は耐えるすべを持たない。
もっと耐えて楽しませなければ。
有働の忠告を受けたはずがなんの学習もできていない。
「だめだっ逝ってしまうっ」
精いっぱいの訴えと同時に祐仁が前かがみになって口を開いた。
「違うっ」
そんなことはされていない、そんな意を込めて叫んだが祐仁は聞かず、逃げ腰になった颯天の臀部をつかんで引き寄せ、支える必要もなく起ちあがった慾を口に含んだ。
脳内にちかちかと火花が散る。
快感の火に違いなく、舌が孔口を抉り、その火はひと塊になって脳内を快楽で焼き尽くした。
そうするのが祐仁であることの至福はこうも圧倒的な快楽をもたらすのか。
颯天は祐仁の頭に手を添え、その髪をくしゃくしゃにしながら果てに昇りつめた。
颯天が祐仁にしたように精は吸い尽くされ、解放されるとその場にくずおれる。
ふらついた上体を祐仁が引き寄せた。
そのまま腿に頬を預けると、祐仁の手がもう片方の頬に添う。
「口でされたなんて、云って……ない。手で……逝かされた、だけだ……」
「乾いた喉を潤しただけだ。食前酒だろう」
喉が渇く。
合言葉だったとわかって祐仁は口にしたのか。
颯天は力なく笑った。
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