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22.走破~無自覚の求愛~ ‐1
泥のように眠り、その狭間 に意識が浮上したり、また沈んだり、それを繰り返しながら颯天はようやく目を覚ます。
躰に心地よい倦怠感 を覚えながら目を瞬き視界を開くと、颯天は窓のほうを向いて横たわっていた。
オーガンジーのカーテン越しに陽が差しこんでいて、漠然と朝だと思った。
どこだ、ここは……。
自分の部屋ではない。
本能的に自分の躰の感覚に神経を集中させると、腰に重みを感じて、背中は妙に温かい。
それが人肌の温かさだと気づくと、一気に昨夜のことが甦 った。
永礼に送られて、颯天は祐仁の住み処に連れこまれた。
連れていかれたのでもついていったのでもない、祐仁が強引に連行したのだ。
そうはいえ、颯天に抵抗する気があったかというと、むしろ従順になるほど望んでいた。
汚れた躰を洗いたくて、『シャワーを浴びろ』と命じられたときは即座に従ったが、『洗ってやる』と云って少し遅れてバスルームに入ってきた祐仁が、洗うだけにとどまるはずがなかった。
祐仁はナイフの傷痕を見て顔をしかめ、スポンジを使わずボディソープをじかに手に垂らした。
傷を避けながら痕跡を清めるべく躰を撫でる手には、内部から熱を帯びるほどわずかに力が込もっている。
工事現場での関口の行為は、レイプでしかなく颯天には快楽の欠片もなかった。
そのときの名残か、颯天は祐仁に触れられても、それが性的な触れ方でなくとも、いつもならすぐさま快楽に繋がるはずが、最初は反応できなかった。
わかってる、と祐仁は何をわかっているのか、『とにかく、おれに洗わせろ』と云って、体内に残っていた関口の痕跡を洗い流した。
そうして躰が浄化されたとき気持ちも癒やされたのか、徐々に快楽が開いていった。
快楽の果てはまるではじめてのときのように突然、すぐそこに現れ、到達した。
それからは荒々しいほど祐仁はがむしゃらに襲ってきて、颯天は続けざまの快楽で泥酔した感覚に陥り、いつの間にか昏睡したように眠っていた。
颯天はゆっくり息をつき、投げだしていた手を重たく感じながら上げる。
額にかかった髪を掻きあげようとすると、ネクタイがほどかれた状態で手首に絡んでいることに気がついた。
逆らうはずもないのに束縛されたことを思いだす。
同時に、颯天の中でずっとくすぶっていた望みが急速に息づき始めた。
息をひそめてみると、背後では規則的で静かな呼吸が繰り返されている。
颯天はネクタイをつかみ、そっと腕から抜けだすように起きあがった。
マットレスは硬めだが、慎重に動いてもベッドは揺れる。
背後にいるのがだれか、多少疑心暗鬼になりながら横たわった姿を見ると、横たわっているのは祐仁に間違いなかった。
颯天と同じで、一件落着したこともあって祐仁も昨夜は精根尽き果てたのかもしれない。
起きた気配はなく、事を起こすよりもまず颯天は祐仁に見入った。
大学時代にあった、どこかあどけない寝顔はさすがに見られない。
ただ、眠りこんだ祐仁は無防備で、颯天はずっと眺めていたい気になった。
けれど、抜かりのない祐仁のことだ。
いまみたいに颯天より祐仁のほうが遅くまで眠っているというチャンスはめったにない。
それに、颯天が望みを口にしたところで受け入れてくれるとは思えなかった。
颯天は投げだされた祐仁の手の下にネクタイをくぐらせ、左右の手首を括る。
息を殺して祐仁を見守るが、まだ起きる気配はない。
ネクタイを祐仁の頭のほうへとそっと動かして、ベッドヘッドの壁に取りつけた照明のブラケットに結びつけた。
横向きになったまま頭上で手を括られた祐仁の姿は、あの日を彷彿 とさせる。
飢餓感が湧いて、颯天は唾を飲みこんだ。
クイーンサイズのベッドは広々として、祐仁の躰を余裕で転がすように仰向けたとたん。
「何をやってる」
パッと目を開き、祐仁が颯天を捉えた。
自分が置かれた状況を素早く察した祐仁は睨めつけるように目を狭めた。
怯みそうになったのは一瞬、颯天の欲望が自らを叱りつけ、そして抵抗に合うまえに祐仁の太腿に跨がった。
「昨日のおかえしです」
そう云って、手を被せるようにして祐仁のオスをくるむ。
そこは眠った間の生理現象の余韻ですでに硬くなっていたが、すっと先端へと撫でたとたん、より確実に質量を増した。
伴って祐仁はかすかに呻き声を漏らす。
あのとき見ていたかぎり、祐仁の感度の良さは颯天に引けを取らず、それはきっといまも変わらない。
根元から先端へと何度も撫であげ、そのたびに祐仁は万歳の恰好のまま拳を握り、腰を突きあげるようなしぐさをする。
程なく、祐仁は先端から蜜をこぼし始めた。
颯天は先端をくるむようにしながら蜜を手になすりつける。
上下させる手の滑りがよくなって、動きが自ずと早くなった。
颯天の体重で思うように身動きの取れない祐仁は躰をうねらせる。
ネクタイを結びつけたブラケットが揺れ、次いで照明を揺らした。
「くっ……颯天っ」
「たまには一方的にやられるのもいいでしょう?」
喘ぐ祐仁に負けず劣らず、颯天の声も熱っぽい。
祐仁の反応を見て昂っているのは確かだ。
おそらくはあのときもそうだった。
颯天は祐仁の向う脛 の辺りまで躰をずらすと上半身をかがめていき、同時にオスから放した両の手のひらを胸のほうへと這わせた。
そうしながら颯天は祐仁のオスへと顔を寄せていった。
そこは支えるまでもなく自分で勃ちあがり、熟れた桃のように赤っぽくはちきれんばかりだ。
颯天がじっと見つめているだけで祐仁は快楽を得ている。
その証拠に、孔口からぷくっぷくっと蜜がゆっくりと盛りあがっては平たく辺りに馴染み、オスに纏わりついて落ちていく。
その根元はしとどに濡れていた。
「やめろっ」
颯天が口を開いたとたん、その様子を瞼を伏せて見ていた祐仁はさえぎるべく叫んだ。
颯天はふっと息を吹きかける。
濡れたぶんだけ、その小さな風でさえ祐仁のオスを刺激してふるわせた。
「祐仁、すごい敏感ですね」
オスの向こうで、祐仁が目を光らせる。
「颯天、憶えてろよ」
「憶えてますよ。祐仁がひどく快楽に弱いことは。祐仁を堕落させたいんです、おれの手で」
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