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第3話
そうして食事が始まったけど、僕は味わうどころじゃなかった。
自慢じゃないけど僕のパーソナルスペースは物凄く広い。全身に力を入れたまま、何とか使えるナイフとフォークでハンバーグステーキを切り飲み下す。それを機械的に繰り返す。
隣では母親が談笑している。それがやけに耳に響いて、僕の心は冷え固まっていく。僕の存在が、小さく小さくなっていく。
「……?」
ふと視線に気付いた。顔を上げる勇気は無いから目だけを上げる。すると、右斜め前に座る眼鏡の……えっと、蒼真さん?と視線がかち合った。ビクッと僕は肩を揺らす。
な、な、なんで、僕を見てるの……?
蒼真さんは僕を見つめて、とても柔らかく微笑んだ。僕はパッと下を向く。そして、しまったと思った。今のはとても感じが悪かっただろう。
あ、謝った方がいいかな……いいよね?これが原因で再婚が破談になったりしたらどうしよう……。
僕はぐるぐる考える。世界が歪んでいく。言わなきゃ、言わなきゃ。『ごめんなさい』って、ほら、早く……。
「チッ」
その時、僕の左斜め前に座る暁さんが苛立たしげに舌打ちした。がちゃんと僕はナイフとフォークを取り落とす。その弾みで僕のスーツにデミグラスソースが飛び散った。
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