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第6話

『見てんじゃねえよ、キメェんだよ』 僕はハッと瞠目した。 暁さんの表情と言葉は、奇しくも死んだ父親とリンクした。実の父親も僕に向かってよく言っていたんだ。 僕は高い耳鳴りに襲われる。冷や汗がぶわりと出て呼吸がしにくくなる。胸の辺りのシャツを握りしめて必死に息をした。「聖くん?」と呼ぶ蒼真さんの声が二重に聞こえる。 ああ、これがトラウマってやつなのかな……。 僕に危害を加えていた人間はもう存在しないのに可笑しな話だ。 そう他人事のように思った刹那、胃がひっくり返った。何かが込み上げてくる。 やばい……! 僕は慌てて洗面台に顔を向ける。途端、おもいっきり嘔吐した。「げ」「聖くん!」と暁さんと蒼真さんがほぼ同時に言う。 ああ、最悪だ……。 その後、蒼真さんが淳治さん達に説明してくれて場はお開きとなった。淳治さんは「具合が悪かったんだね。気付かなくて済まない」としきりに謝ってきて、蒼真さんはお父さん似なのかなと僕は漠然と思った。 三人と別れた帰りのタクシーの中で「あんたのせいでデザートを食べ損ねたわ」と母親にぶつぶつ文句を言われたが、申し訳なく思いながらも解放された僕は心底ホッとした。まさか吐くとは思わなかったけど……。 こうして、最悪の顔合わせは終わったのだった。

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