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第4話

あれから葵と伊佐海の関係が気になって仕方がない。柊が読んだ通り2人はいい仲だったのだろうか。 あんなにおっとりして料理も上手くて綺麗な葵さんーーーと妄想にふけっていたところで真は一つの事実に気がついた。 半ば妄信的に葵を慕ってはいたが、なにも彼の詳しい情報を知らない事に気がついてしまった。これでは葵を一目見たさに通っているマダム達となんら変わりない。 「……腹を括るか」 蜜柑の果汁を舐めとる時の挑発的な視線や、今日の手のひらへ触れてくるアプローチ。時たま艶やかな一面が垣間見える。 真は恋愛に関しては単純で突っ走ってしまう節がある。男だとか女だとかを気にする前にもう葵のことしか考えられないでいた。 「葵さんって伊佐海って男とどういう関係なんですか?」 「え?どうしたんだい。突然」 朝の配達の時だった。昨日の伊佐海の話が気になりすぎて直接葵に聞いたのだ。 真は腹を括ったら潔いまでに大胆に行動する男だった。 「昨日帰りに話しかけられて」 「アイツ、なんて?」 そういう葵の表情がいつもの朗らかなものではない。いつもと違う雰囲気が纏われる。 有無を言わせず問いただすような空気感に、思わずゴクリと生唾を嚥下する音が漏れる。 時たま豹変するこの空気感はなんなのだろうか。知りたい。葵の事をもっと。 「いや、軽く世間話をしただけですけど。葵さんも昨日彼が帰られる時に親しげに話されていたので」 流石に手に負えないなんて忠告を受けたとは素直に言えない。本人にあなたのことを狙ってますと告げるようなものだ。 葵はその後ふ〜ん、そう…と少し疑うような視線を送っていたが、気にしないようにすることにしたらしく、高校時代からの腐れ縁だと教えてくれた。 「なんだかんだ十年来は友達をしてるんだ。けど、アイツが君にいきなり話しかけるタイプには見えないけど」 詰め寄るように胡乱げな瞳で見上げられながらも、葵との距離が近くなりついにやけてしまう。 「葵さんってそういえば年はいくつなんですか?」 「そこで突然話を変えるかな?君って偶にマイペースな所があるよね。29だよ」 溜め息をつかれ、腕を組んで壁にもたれる。どうやらもう少しお喋りに付き合ってくれるようだ。 次は何を質問しようかと悩んでいると葵の方から先手を打たれてしまった。 「で、伊佐海には本当は何て言われたんだい?じゃじゃ馬?お前の手には負えないとか?」 十年来の付き合いだからか、伊佐海の言うことなどわかっていたと言わんばかりに指摘される。 瞳を覗きこまれ問われ、思わず瞳を揺らしてしまった。バレバレである。 「なんで、それをーー」 「まぁ…瀬戸くんが俺に気があるのは、悪いけどバレバレだったから。こっちが恥ずかしくなるくらい」 「マジか……」 消えて埋まりたいとばかりに赤くなりつつ、好意を持たれてると知ってても態度を変えなかった葵に少し希望を持つことにした。 「俺が君の事を気に入ってちょっかい出してるのを見かねて忠告したんだろうね。君の反応が可愛くて、つい……ゴメンね?」 遊びだと言わんばかりに軽く告げられ、告白する前に純情を弄ばれたような気分だ。 そもそも相手にされていない。 その気がないのにそういう素ぶりを見せる。確かに野球一筋で対して恋愛経験を積んでこなかった真には手に余る男だった。 「葵さん。俺の事気に入ってくれてるんですよね」 「うん。君の仕事っぷりには好感を持てるし快活な性格も素敵だと思うよ」 「俺、可能性はありますか?」 「気持ちは嬉しいよ、でもごめんね」 潔いまでの即答。考える素振りもなく振られて、わかっていても落ち込んでしまう。 「葵さん、こういうの言われ慣れてますよね」 「まぁ…君より歳上だから」 肩を落としながら恨みがましく葵を見つめて見るが、にっこりと微笑み返された。手強い。 そもそも気持ちを伝える前からバレバレだったのだ。 今更玉砕したところで何もかわらない。 「これから好きになってもらえるように頑張ります!」 「…うん、頑張って」 玉砕したら諦めると思っていたのだろうか、変わらず接してくる真を眩しいものを見つめるような瞳で見つめる。 「君は本当に面白い男だね」 2人の関係が変わった瞬間だった。

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