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第5話

「ちわーーっす!瀬戸商店です」 しんとした開店前の店内に真の快活な声が響き渡る。 「ありがとう。いつもの所に置いておいて」 「葵さん、手出してください」 「うん?」 告白して玉砕したあの日から、数日。 真は開き直ったら図々しくなれる男だったらしく、以前より露骨に好意を出してくるようになった。と言っても葵からしたら懐いた大型犬くらいの認識でしかなく、軽くあしらわれているのが日常茶飯事だ。 想像以上にずっしりとしたものを乗せられ慌ててもう片方の手を添える。 「桃?」 「はい!桃の出回り時期になってきたので、葵さんに1番に食べてもらいたくて。プレゼントです」 「なんだそれ…っ、ふふっ…桃をプレゼントされたのは初めてだよ」 「葵さん、そんなに笑わなくても」 「……ありがとう」 笑いすぎて溢れた涙を拭いながら花咲くようにふわりと溢れた笑顔に思わず、息を飲んでしまう。 「今日も午後の配達の後、寄る?」 「はい!そのつもりです」 「…待ってるよ」 そんな葵の言葉さえ嬉しくて、ゲンキンにも真は舞い上がる気持ちになり仕事に精を出した。 朝の約束通り、午前の仕事を終わらせて葵の店に寄るといつものコーヒーを頼む。 今日は火曜日な事もあり葵1人で回しているのかアルバイトの姿はない。店内は数人のマダムと真のみの穏やかな時間が流れている。 しばらくしてドリップしたコーヒーと一緒に注文していない桃が置かれる。 「えっ?」 「今朝くれた桃をコンポートにしてアイスを詰めたんだ。ちゃんと半分は自分で食べたよ?」 プレゼントした桃を自分の為に振舞って貰えるとは思わず、思わずポカンとしてしまう。 「試作も兼ねてるんだ。食べたら感想を教えて」 そう言って仕事に戻る葵を見送りながら、桃をつつく。こうやって他の客とは違う特別扱いをされると、少し自惚れてもいいような気さえしてくる。 あの告白から関係は進展していないものの、葵の態度も砕けたものになってきて距離は縮まって来たように思う。 口に入れた桃は甘く蕩けるようで、まるでこの恋のようだーーーと真が浸っている時だった。 チリン、と来客を告げるドアの音が聞こえ葵のいらっしゃいませという声が聞こえる。 「お客様?」 という訝しんだ葵の声が聞こえ、気になり入り口の方に視線をやると葵を見て驚いたように立ち尽くす一人の男がいた。 知り合いだろうか。そう真は思ったものの、葵は訝しげに様子を見ている。 男は驚愕のち、カァーッと顔を紅潮させ勢いよく葵へ詰め寄った。 「葵…?葵だよな?またお前に会えるなんて 俺は付いてるな!仕事でヘマしてこんな田舎に飛ばされてウンザリしてたけど、ラッキー!なぁ、またーーー」 「…どなたかと人違いされてませんか」 男の声を遮り返した葵の声は地を這うようで、凍て付くような視線で男を睨みつけていた。 「なんだよ、他人のフリなんて。俺はお前の事忘れられなくて付き合ってた彼女にも振られたんだぜ?なあ?」 次第に大きくなっていく男の声に、店内のマダム達も気がついたのかヒソヒソとざわつく声が漏れる。 「騒ぐようなら出て行ってください」 その言葉とともに葵に腕を捕まれ男が店外へ連れていかれた。 店内に取り残された真には首を突っ込まないという選択肢がなく続いて二人の後を追うように店外へ飛び出た。 「なぁ、ここに来たのは偶然だがこの機会だ。またヤろうぜ」 「…本当にどちら様ですか」 葵の方は本当に面識がないのか溜め息をついて煩わしそうに相手をしている。 「おい!アンタ!葵さんは知らないって言ってんだろ」 二人の間を裂くように割って入り葵を背後に庇うと、絡んで来た男は自分より体格のいい若い男に怯んだのか一瞬ギョッとした目を向ける。が、すぐにニヤついた笑みに戻りジロジロと真を舐め回すように見る。 「な、なんだよ」 「葵、新しい男か?お前本当に取っ替え引っ替えだな。今度は若い男にご執心ってか?」 葵を侮蔑するように言い放った男にカチンと来たが、もう帰ってくださいと冷たく葵に言い放たれまた来るよと言い残し素直に帰っていった。

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