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第2話
この世界には男女性のほかにアルファ、ベータ、オメガという性別がある。ベータが一番多い性別でオメガやアルファは少ない。特にオメガはさらに少ないと言われて、昔は劣等種として蔑まされていたが今では国から手厚い保護が受けられる。アルファは成功することが多く、国の重要な職務についている人や、企業の社長なんかをしている人はアルファが多い。僕は、企業役員を務めるアルファの父と同じくアルファで女医の母との間に生まれた。血筋だけ見れば、僕は生粋のアルファで生まれるはずだった。しかしどういうわけか僕はベータとして生まれ、双子の弟はアルファ。僕だけが、そこにあるべき形をしていなかった。今でも覚えている、困惑した両親の声を。どうして、と言った母の声を。僕が生まれてしまったことで、家族は困惑してしまったのだ。まさかアルファ同士の子どもがベータだなんて、普通ならあまりない事例だそう。
「あの子には悪いけど、私は認められないわ。お腹を痛めて産んだ子どもが、ベータだったなんて」
「お前…。気持ちはわかるが。あの子は紛れもない俺たちの子どもなんだ」
あの時、眠れなくて水でも飲もうとリビングに向かった僕が聞いた言葉。衝撃だったし、僕はどうしてアルファじゃないんだろうって思った。僕は、ベータである限り母親に認めてもらえない。それは僕にとってどうしようもないことだった。すでに当時、アルファとしてその頭角を現し始めていた弟と、可もなく不可もなく普通の僕。何をやらせても完ぺきにこなしてしまう弟と、何をしても遅いし間違いだらけの僕。比べられるまでもなかった。
「父さん、今度この参考書買ってきて」
「ああ、もちろんだ。すごいな、ここまでやれるなんて」
「まあ、よくできてるじゃない。その調子で頑張って」
僕も、欲しかった。そうやって弟の頭をなでる手が。
「っ!!」
深夜、嫌な夢を見て飛び起きた。遠い昔、僕が初めて家族との間に壁を感じた瞬間の夢だ。僕も欲しいと願ったものは両親を困らせるだけでいつしか願うこともなくなった。忘れたい、僕はどこまでも普通であることを。僕も何か突出したものを持っていれば、そんな願いだけが心を支配する。僕の性別は何をしたってどうしようもない。性転換できる薬はないし、一生僕はこの性別と付き合わなければならないのだ。そんなことはわかっている。でも、どうしても僕はソレが欲しかったんだ。
「僕は、どうしてベータなの」
悲しい、胸が痛い、僕も撫でてと勇気を振り絞って言い出せば、困ったような笑みを浮かべて戸惑う両親の姿。どうして僕は撫でてもらえないの?褒めてもらえないの?そんな疑問ばかりが生まれては消えていく。僕はどこまでも一人だった。両親に少しでも振り向いてもらいたくて頑張った勉強、迷惑をかけたくなくて必死でいい子を演じた。ベータの中でも優秀だと言われて、これで褒めてもらえると思ったのに、その上を行くのが弟。勝てるわけがなかった。どれだけ弟を憎みたくても僕は憎めなかった。弟は自分の力を過信せず、努力ができる人だったから。できない僕にも優しく接してくれる、聖人のような人だった。そんな弟を僕はアルファだからという理由で憎むことはできなかった。
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