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第4話

「これと、あとはこれだな」 家を出て、電車に乗って二駅離れた場所で降り、ワイシャツの売っているいつも買っているお店に行く。ものすごくブランドのものからそうでない一般的なワイシャツまで幅広く取り扱っているので、ただの書店員である僕でも手が出せるものがある。 「御贔屓にしてくださり、ありがとうございます。またのご来店お待ちしております」 お目当てのワイシャツを三枚、きっちりと買い、店を出て次の場所であるアニメグッズ専門店へ向かう。そこへの移動も電車だから、最寄り駅で電車に乗ったときのことだった。時間帯は通勤ラッシュを避けたからそこまで満員、というわけでもないがそれなりに人がいる。そんな車内で僕はひどく気分が悪くなってしまった。 「っっ」 こんなに車内って臭かったっけ?きつい香水の香りがいくつも混ざったような、本当に鼻が痛くなるような臭い。たまに電車に乗るが、いままでこんなことはなかった。多少は車内も香水や女性の化粧品の匂いなどいくつかの匂いが混ざっていることはあるが、それはあくまでもかすかに、程度でいつもは車内特有の匂いしかしないはずなのに。頭がクラクラする、気持ちが悪い、吐きそう、そんな感覚が僕の身体を支配する。もうだめだ、座りたい、せめて座りたい。なのに、あいにくと席は空いておらず。 「大丈夫か?」 なんとかつり革を震える手で掴んでやけに寒気を覚え、力の入らない身体をつり革一本で支えていた。もう本当に倒れてしまう、というときにそっと僕を支えるように身体を抱きとめて声をかけてくれる人がいた。その声は僕が恋焦がれる彼のモノで。 「あ、え?」 言葉が続かない、名前さえも知らないただ僕が焦がれるお客様の彼が、なんでここにいるの。僕は休みでも今日は平日だから、スーツを着ている彼は仕事中のはずなのに、とか訳が分からなくなった頭が疑問だけを訴える。 「すぐに駅に着くから、降りよう。歩けるか?」 「は、はい…」 ふわり、と香るシトラスの爽やかな香りともう一つ、なぜか心地いい不思議なニオイが彼からする。もっと嗅いでいたい、そう思わせるような香り。 「気分はどうかな」 あれから彼に支えられるようにして到着した駅で降りて、人気の少ない場所のベンチまで連れてきてくれた。少しの間、離れた彼は手にミネラルウォーターを持っていて、キャップを開けて僕に渡してくれる。それをありがたく、まだ震えている手でゆっくりと受け取って口に含む。冷たい水がのどを通って気持ちいい。 「えっと、あ、だいぶ良くなりました…。その、ご迷惑をお掛けしました、すみません」 「ああ、君に名前は名乗っていなかったな。高科雅人だ、迷惑だなんて思っていないから大丈夫だ」 「でも、お仕事が…」 「それも大丈夫、さっき連絡を入れたから」 ポケットに入っていたスマホを指さして、いたずらっこのような笑みを浮かべる彼。その笑みになぜか安堵してしまう。

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