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第5話
「それよりも、どうしてそんなに体調が悪いのか、思い当たる節は?」
「それが、まったくなくて…」
こんなにも体調が悪いと感じる、なのに思い当たることが何もない。別に風邪をひいていたわけでもないし、とても疲れ切っていたわけでもない。ただ、最近は日勤と夜勤の繰り返しだったから、身体がついて行かなかっただけかもしれない、なんて。無理やり理由を探せば一応は出てくる。
「あ、でも…その、最近ちょっと勤務時間の変動が多かったので、それで疲れが知らず知らずのうちに出ていたのかもしれません…。本当に、すみません」
恥ずかしい話だ、社会人にもなって体調管理もできないのは。そして人に迷惑までかけた。こんな自分の姿を家族が見たらどうなることか。母は、間違いなく目に見える嫌悪を浮かべるだろう。自己嫌悪に気持ちが沈んでいく。
「なるほど、それでか…。オメガ専門の病院に行った方がいい。君はオメガだろう?今の薬、ちゃんと身体に合っているのか?」
「えっ…?僕は、ベータです…が…」
「は?こんなにオメガのフェロモンを漂わせてか?」
「ど、して…。僕は、ベータで、なん、で」
「一緒に病院に行こう。とりあえず検査をしてみないと」
「い、やです…」
「嫌って、どうして」
オメガは国に保護される、それに伴い、国のオメガ機関に登録される。登録されるということは家族にも知られるし、家族が勝手にアルファを見繕うこともできる。僕が僕じゃない誰かに支配されるのだ。
「わかった、俺の番として病院に行こう」
「あ、それ、は…」
「君はオメガ機関に登録されるのが嫌なんだろう?そして家族に知られるのも嫌、それなら俺の番として、俺の主治医に連れていくのが安全だ。なによりも、まず君は病院に行くべきだ」
「あなたに、迷惑はかけられません。大丈夫です、すみません。病院へは自分で行きますから」
大丈夫、そう念押ししてまだ力の入らない身体をベンチから立ち上がらせようとした時だった。彼に急に抱きしめられた。心地よい匂いが僕の中に入ってきて、とても幸せな気持ちになるのと同時に、悲しくなった。僕が、ちゃんとしたオメガで、この人の運命の番だったなら、よかったのに。
「俺は君を大切にしたい。どうか、俺のために一緒に病院へ行ってほしい。迷惑なんかじゃない、君のことを迷惑に思うことなんてないよ」
「今日は、お言葉に甘えます…。すみません、病院までお願いできますか…?」
「もちろんだ。さぁこっちに」
彼にそっと支えられるように歩き出し、いつの間にやら電話をしていたのか、車に乗せられた。タクシー、ではなさそうでなんだろうと思うが、僕にそれを知る権利はないから黙っていることにした。
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